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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第四十五話

「メアリ、おれも出る」


「だめよ。冷静になりなさい」


ヒーリーの意志をメアリは真っ向から否定した。移動中の軍団を指揮すべき軍団長が飛び出しては今後の戦術行動に支障を来すことになる。加えて、一個大隊を投入後の戦力の逐次投入は下策以上の何ものでもなかった。第四軍団が致命的なミスを犯した今、これ以上のミスの上塗りは参謀として、メアリの許せることではなかった。


「君のいいたいことは分かる。だけど……」


「分かるなら、出ないで」


意固地ともいえるほど、今日のメアリは頑固だった。第四軍団は参謀長の制止も聞かずに暴走した。他の軍団はどうあっても、第五軍団だけはそうあってはならない。妹を思ってはやるヒーリーの気持ちは理解出来る。だが、それに左右されて千を越える兵士の命を危険にさらす訳にはいかなかった。メアリは自分の職責と命をかけた。彼女は懐にしまった護身用の短剣を抜くとのどに当てた。


「メアリ……」


「この第五軍団を第四軍団と同じ運命には遭わせないわ。それではお祖父さまたちは何のために命を投げ出して戦っていると言うの? 救援に向うのであれば、わたしに『死ね』と命じてからになさい」


ヒーリーは命じることなど出来なかった。メアリの言うことは正しかった。メアリと第五軍団、そしてフランシスらの命を軽んじてはいけない。ヒーリーはこぶしを握り、力なく手を下ろした。


「わかった。メアリ、出撃はしない……」


頭を垂れ、前髪をおろしたヒーリーの表情をうかがうことは出来なかったが、心中は複雑であっただろう。「妹を見殺しにした男」「万の兵を無駄死にさせた男」ヒーリーはそうした内なる声に責められていた。


「攻城兵大隊をのぞく第五軍団全軍の移動と展開を急がせろ。参謀長……」


ヒーリーはメアリに対して強い命令口調で言った。平時も、二人きりのときもこのような言葉遣いを使ったことはなかった。仲間に対してではなく、部下に使う言葉、「溝が出来た」英明な参謀長は悲しげに目を伏せると、伝令のため作戦室を出て行った。ヒーリーは椅子に力なく腰を下ろし、机に肘をついた。言いようもない怒りと悲しみが、彼の中で混沌と渦巻いている。一人だけの作戦室で、ヒーリーは机に拳を叩き付けた。


「ばかが……」


すぐ前方の戦地で戦う妹を思い、ヒーリーはただ一人頭を抱えていた。

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