第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第三十六話
戦場には千を越える死体が転がっていた。味方のもの、敵のもの、戦争で唯一平等に存在するものだった。死体には隊長も兵卒も敵も味方もない。ただの物体としてそこにあるのだ。数十、数百にも及ぶ戦闘で、フランシスはそれを見てきた。生き残ることが出来た喜びと、戦友と共に逝けなかった罪悪感が混沌となる思いを彼は抱き続けて来た。
最後の戦いでもそれは変わらないのか、フランシスは運命の皮肉を呪った。
一方、先鋒、中軍の六個軍団に先んじてミュセドーラス平野一番乗りを果たしたハイネら、ワイバニア第一軍団はフォレスタル第一軍団を撃破した速度を維持しながらミュセドーラス平野中央部に向けて南下した。これは馬蹄形をした平野外縁に連合軍が展開しており、兵力の空白地である平野中央部が最も安全であったためである。ハイネは自軍を魚燐の陣に再編成すると、後続の軍団到着を待った。
平野最南部、連合軍最後衛の本陣にいたヒーリーは好敵手が中央に居座る様子を確認した。
「大将軍、おれは行きます。右翼のフォレスタル軍の指揮を最前線で執らなければなりません」
タワリッシは無言で頷いた。総司令官の許可を得たヒーリーは自分が指揮する軍団に戻ると、各部隊に命令を飛ばした。
「これより、フォレスタル第五軍団も出撃する。敵は強大だ。皆の健闘を期待する」
侵入口の緒戦が終わり、ついに互いの本隊同士が刃を交える時が来た。フォレスタル軍総司令官ヒーリー・エル・フォレスタル率いるフォレスタル軍第五軍団七〇〇〇名は右翼の第三、第四軍団がいる東側丘陵地へと進軍を開始した。