第一章 オセロー平原の戦い 第二十九話
「撃てぇ!」
文字通り、矢継ぎ早に連射されたバリスタの大型矢がワイバニア軍先鋒に殺到した。通常の倍の大きさと射程を持つバリスタの矢は正確にワイバニア兵を射抜き、戦場にワイバニア兵の死体の山を築いていった。
「ひるむな! 屍を踏み越えてでもフォレスタル兵を殺せ!」
先鋒の次席指揮官が叫んだ。先鋒部隊は矢の一斉射撃を受け、軍隊の組織としての機能は麻痺していたが、それでも一人一人の激情は頂点に達しており、雪崩をうってモルガン率いる弓兵大隊に攻め込んできた。
「なんと言う奴らだ。ここが正念場だ。全員、粘れ!」
モルガンは司令部の予備の人員までボウガンを持たせ、猛烈な掃射をワイバニア軍に放ち続けた。ワイバニア兵は仲間の屍を踏み越えてでも突撃を止めようとしなかった。
「狂ってる……あいつら……」
ヒーリーの傍らにいる兵士が言った。
「これが戦争というものだ。どんな人間でも理不尽な死を前にしたら、皆こうして狂ってしまう。もっとも、彼らを狂わせてしまったのは、他ならぬ俺だ。俺は、一生この十字架を背負って生きていかなければならない……」
ヒーリーは自嘲気味に言った。普段の態度との落差に、周囲の兵士達は戸惑った。それに気づいたヒーリーはいつもの調子に戻って、新たな命令を出した。
「いけないな。今はまず勝つことを優先しないと。第三弓兵大隊がピンチだ。両翼の第一、第二弓兵大隊は前進し、敵先鋒の動きを止めるんだ」
ヒーリーは距離を詰められ始めている第三弓兵大隊を助けるべく、両翼に配置した弓兵大隊を前進させ、鶴翼の陣形を敷いた。
「第三弓兵大隊を助けるんだ。アンドロニカス弓兵隊の意地を見せろ!」
第二弓兵大隊長のアーサー・ワットが剣を振り下ろし、一斉射撃を命じた。前方の矢に耐えていたワイバニア軍の右側面から矢の雨が降り注いだ。
「奴らを逃がすな。第二、第三弓兵大隊と共同して敵を仕留めろ!」
ワイバニア兵が前方と右から迫り来る矢から逃げようとした絶妙のタイミングで、ワイバニア軍左側面に位置したフォレスタル第一弓兵大隊が射撃を開始した。