第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第三十四話
一方、ワイバニア軍と対峙していたフォレスタル第一軍団は、再び防御を固めて、ワイバニア軍の攻勢に備えていた。熟練の三個軍団と交戦したフォレスタル第一軍団の損害は軽微とは言えなかった。陣容がわずかばかり薄い。フランシスは眉をしかめた。
「相手は三個軍団です。これだけの損害なら、上出来と言ったところでしょう」
「だが、防御陣の薄さは否めん。次の攻勢を防ぎきれるかどうか、さらに増援を繰り出して来たら……」
「さすがに四個軍団は……ん?」
ウェルズリーは前方の敵軍が不可思議な動きをしているのに気づいた。対峙している軍団の後方から左右に別れている。まるで、後続の軍団への道をあけるかのように。老練な軍団長は敵の意図に気づいた。
「軍団長! 新手です! 正面から!」
三つ編みを弾いてウェルズリーは言った。フランシスは双眼鏡をのぞくと、遥か後方から立ち上る土煙と、紅の鎧に身を包んだ兵の群れを認めた。
「……速い!」
巨人が投げた龍の槍。前の味方を割くように疾駆するワイバニア第一軍団の隊列は常識を遥かに超える驚くべきスピードでフランシスの軍団前衛に突っ込んだ。
「なんだ? これは?」
フォレスタル第一軍団最前線の兵士達は夢でもみているかのように錯覚したかもしれない。目の前の敵軍が左右に割れたと思ったら、ほぼ最高速度にまで加速した騎馬軍団が突入して来たのだから。
フランシスの横陣は柔軟性と防御力に優れた陣形である。敵の突進力をスポンジのように吸収し、押し戻す。しかし、どんなものにも許容量が存在し、キャパシティを超えたものは例外なく崩壊する。
ハイネの突撃はフランシスの横陣の衝撃吸収限界を遥かに上回る速度と兵力で殺到したのである。龍槍は三個大隊で構成されたフランシスの横陣を易々と突き破り、フランシスがいる第二陣にまで達した。