第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第二十九話
「第十一軍団が壊滅!?」
ギーゼラの遺言通り、第十一軍団の残軍をまとめ、最前線の後方の中軍に合流した第十一軍団次席参謀リヒャルト・マイヤーは第三軍団参謀長アルバート・フォン・ヘッセに報告した。
「それで、残存兵力の陣容は……?」
「健在なのは、第五歩兵大隊と第二弓兵大隊の二大隊のみ。渓谷からの生還者で混成大隊を臨時に組織しておりますが……」
「わかった」
マイヤーの言葉をアルバートは制した。突入した兵力の八割がたを失ったほどの敗退だ。混成大隊を組織したとしても、装備、士気ともに、もはや軍とは言えないだろう。同じく組織をまとめるものとして、これ以上の言葉を引き出させることは彼のプライドを傷つけることになる。ワイバニア有数の頭脳は静かに目を閉じた。
「ギーゼラは……。貴隊のヴァント参謀長はどうした?」
あまりにも分かり切った答えだった。マイヤーを傷つけることになることもわかっていた。しかし、聞かずにはいられなかった。マイヤーはうつむき、首を振った。
「そうか……」
「参謀長からは、この書状を渡すように頼まれました」
手紙にはギーゼラの無骨な字で、「ありがとうございました。わたし達の軍団を頼みます」と書かれていた。マイヤーは周囲を見回した。マイヤーのまわりには、アルバートの他に中軍を構成する各軍団の軍団長と、参謀長達がいる。ギーゼラ最後の言葉を伝えることに少し逡巡したのである。
「……どうしたの? わたし達に構わないで言いなさい」
ベティーナが、マイヤーの態度を見て言った。
「わかりました。参謀長から、ヘッセ参謀長に伝言を言付かりました。『ずっと、好きでした』と。そうお伝えするように……」
「そうか……」
アルバートは一言だけ言うと、唇を真一文字に結び、こぶしを握りしめて固まった。まるで、不動の第三軍団を象徴するかのように、たじろぎもしなかったと言う。