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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第二十八話

第十一軍団壊滅。その報は敵味方問わず戦場を駆け巡った。


「やりましたな」


「おぉ!」


フランシスとウェルズリーは互いの手を握りしめた。前哨戦における初の完全勝利だった。フォレスタル第一軍団の将兵達は勝利に沸き立ち、その士気はおおいにあがった。


「アルレスハイム連隊に伝令を頼む」


フランシスは傍らの伝令に言った。


「伝令には何と?」


「『ご苦労。貴隊の奮戦に感謝する』以上だ」


伝令は短く返事をすると、フランシスのもとをすぐに離れていった。この伝令が、他の部隊に出したフランシス最後の伝令だった。その文言は、明快かつ気遣いにあふれたものであったと言われている。袂を分かったとはいえ、かつての同僚を殺さなければならなかったアンジェラの心情を不器用ながらも、十二分に慮っていた。


この伝令を受け取ったアンジェラは、後退前にフランシス隊がいる方角に深く一礼したと言う。


「なんというざまだ!」


ワイバニア皇帝ジギスムントは、ザビーネ・カーン戦死、第十一軍団壊滅の報告を受け、激昂のあまり、作戦図が置かれたテーブルをひっくり返した。


「たかだか、老いぼれ一人と一個軍団を片付けられぬとは、何をやっている!? 能無しどもめ!」


「ただの一個軍団ではないわ。アルマダ随一の将が率いている軍団よ。レベルが違う」


「はっ! 地上最強が聞いて呆れるな。さっきの音のせいで、龍騎兵も使い物にならぬ。お前も能無しには変わりないわ」


ジギスムントはシモーヌを嘲った。確かに新兵器によってワイバニアの龍騎兵が全滅したのは、彼女のミスだった。敵方の情報撹乱と、情報収集は彼女の主任務であったからだ。特に、新兵器を開発したラグの研究所への侵入に成功しながらも、情報収集や、新兵器の破壊を怠ったのは彼女の落ち度だった。そのような情報を得なくとも、連合軍などやすやすと撃破出来ると思ってしまったのだ。見下した相手に露骨に蔑まれたシモーヌは黙ると、皇帝の陣を出て行った。


「影よ」


シモーヌは怒りの炎を目にたぎらせ、部下を呼んだ。


「これに……。ぐっ!?」


音もなくシモーヌの前に跪いた影の首を即座にはねた女軍師は部下の死体を何度も切り刻んだ。返り血で軍服が、髪が、白き肌が朱に染まっていく。


「シモーヌ様……」


凶行に及んだ主をなだめるため、ウーヴェが前に現れたが、シモーヌの怒りは変わらなかった。忠臣の首に血まみれの剣を突きつけた。


「能無しとは笑わせる……。わたしが、……このわたしが……。ウーヴェ、中軍に伝達なさい。中軍全軍をもって、直ちにミュセドーラス平野に殺到せよと」


シモーヌの従僕は恭しく一礼すると、シモーヌの影に同化するように消えた。ミュセドーラス平野大決戦、その前哨戦がいよいよ、終わりを迎えようとしていた。

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