第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第二十二話
「こんな猫だまし。もう二度と通用しないでしょうなぁ……」
地に落ちていく龍を見て、ウェルズリーはしみじみと言った。
宮廷魔術師ラグニール・ド・ビフレストの最新作、対翼竜閃光轟音魔術散弾は凄まじいほどの威力を示した。翼竜は人間の数倍も優れた感覚器を持つ。その感覚器、とりわけ目と耳に強烈な刺激を与えることで、敵翼竜を戦闘不能に陥れる兵器。それが対翼竜閃光轟音魔術散弾だった。これにより、最前線上空にいた四個軍団の四個龍騎兵大隊四〇〇〇名はは全滅した。それだけではない。光と音の余波は戦場にいた者たち全てに襲いかかった。
この決戦に参加した全十軍団の翼竜が全て戦闘不能になったのである。中でもハイネの愛騎レイヴンの傷は最も深かった。他の翼竜とは一線を画す感覚器を持つエメラルド・ワイバーンである。筆舌のしようもない苦しみにのたうち回り、泡を吹き、その巨体をけいれんさせた。
「レイヴン! 龍医を呼ぶのだ! 早く!」
目の見えない体を引きずり、相棒にすがりついたハイネは叫んだ。だが、閃光と轟音は馬に、龍に、等しく被害を与えた。練度、士気、共に高い第一軍団ですら、恐慌状態寸前になっており、軍医や翼竜専門の医師である龍医の到着は遅れに遅れたのである。
「レイヴン、待っていろ! すぐによくなる!」
愛騎を励まし、ハイネは軍団の統率に努めた。軍団のパニックを抑えることが、医療部隊の展開を早くする近道であると考えたのである。
前線の軍団長たちは敵軍の攻撃に加えて、自軍の戦力の建て直しにも時間と精力を注がねばならなかった。戦端が開かれて三時間、侵入口の戦いは混乱を極めていた。