第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第二十一話
フランシスの号令のもと、第一軍団が保有する全二〇基の投石機から、同じ数の砲丸が放たれた。砲丸は風圧に負け、自壊すると、それぞれ一〇〇の子砲丸に分裂した。
「……なんだ? まずい! 全隊、散開……」
先頭を飛ぶ第二軍団龍騎兵大隊長ワルター・フォン・ティボーが叫ぶと同時に、二〇〇〇の砲丸が一斉に炸裂した。
昼間の太陽の数倍は明るくしたような閃光と、地を揺るがすほどの轟音が上空を飛ぶ龍たちに襲いかかる。視覚と聴覚に大きなダメージを受けた龍の群れが意識を失い、次々と落ちていった。龍騎兵大隊の精鋭たちは突然の危機にも懸命に、そして冷静に対処したが、制御を失った龍に彼らが出来ることは、何もなかった。地面に叩き付けられる前に、彼らは泣きながら愛騎を捨てていった。そして龍たちは彼らが属する軍団に真っ逆さまに突っ込んで行ったのである。
「何て……。何てことを……」
落馬し、一時的にではあるが、閃光と轟音で、視覚と聴覚を奪われたマレーネは、痛みと憎しみに顔を歪めた。どんなときも慈愛の心を失わなかったワイバニアの聖母が初めて憎悪の感情を現したのである。
「マレーネ様! 伝令から、報告です! ……マレーネ様! しっかりしてください!」
副官のエアハルトが血相を変えて、マレーネを助け起こした。泣きそうな顔で、彼はマレーネに何か言おうとしていたがマレーネには彼の言葉が聴き取れなかった。マレーネは顔を青くさせながら少し笑うと、紙とペンを取り、指示を書くと彼に手渡した。
「全軍、散開……。わかりました!」
自分自身も耳をやられている。それでも構わずに大声で話した副官は、何とか正気に戻した馬を駆り、伝令に走っていった。