第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第十二話
「危険です!」
「お前がそんなこと言うとは、意外だな。レイ」
体を張って止めようとするレイをアンジェラは笑った。
「お前だって、わたしの価値を知らぬ訳ではあるまい?」
「しかし……」
アンジェラはワイバニア本国にとって裏切り者である。彼女が姿を現せば、ワイバニアの軍団長たちは彼女をとらえようとするだろう。囮としての価値だけで言うならば、フランシス以上のものがあったかもしれない。
しかし、ワイバニア四個軍団、四万人の矢面に立つのである。しかも作戦に使える兵力はわずか五個中隊五〇〇人。獅子と猫が戦いをするほどの戦力差だった。
「せめて、あと二個中隊……」
「だめだ」
アンジェラはレイの申し出を突っぱねた。
「これ以上、兵力を割けば効果は期待出来ない。わかっているだろう?」
「はい……」
「心遣いだけ、ありがたく受け取っておくぞ」
アンジェラはレイに言った。彼女の身を思う副官はアンジェラにマントを手渡した。軍団長クラスのみが羽織ることを許されたマント。ヒーリーが特別に許可をもらい、アンジェラに与えたものだった。アンジェラはマントを羽織ると陣幕を出て行った。陣幕の外には、アンジェラが直率する各隊の隊長が彼女を待っていた。
「アルレスハイム連隊の初陣だ。目標は敵第十一軍団。無茶をするな。訓練通りやれば、恐れるものは何も無い。貴官らの健闘を祈る」
雌伏のときは終わった。各隊の長は剣を高く掲げてアンジェラに返した。敵に位置をさらしてはならない。金髪の女将とその配下は息を殺し、それぞれの持ち場へと散っていった。