第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第十一話
フランシスとウェルズリーの芸術的とも言えるコンビプレーによって翻弄されたワイバニア第二軍団だったが、マレーネはこの局面で、上位軍団長らしい手腕を発揮した。リピッシュとヒッパーの助けを借り、後退を成功させると、すぐに戦力を再編して、攻撃を再開したのである。
マレーネは自軍団を三つに分け、フランシスの横陣に同時攻撃を仕掛けた。意図的に戦力の不均衡を生じさせて優位に立つピットの戦術を、マレーネは逆手に取ったのである。
マレーネは敵が包囲にかかる直前で部隊を後退させると、さらに全軍を五つに分け、逆突出した敵部隊に再度攻撃を加えた。息つく暇も与えないマレーネの攻撃に、フランシスの横陣の鋭鋒はじわりじわりと浸食され、じりじりと後退を始めた。
最前線にいたピットとウェルズリーは馬を走らせ、さらに全軍が見渡せる司令部まで戻っていった。
「さすがは、上位軍団長……。一筋縄ではいかんようじゃの。なかなか恐ろしい娘御だて」
野戦指揮所となる軍団長専用馬車の屋根に上ったフランシスは口笛を吹いた。
「……よっと、これは年寄りにはきついですな。……うぅむ。あまりいい展開では、ありませんな。前線がこれより後退すると、背後の一個軍団が出しゃばることになります」
息を切らして、やっとのことで屋根に上った老参謀長はフランシスに尋ねた。
「いまいましいが、仕方あるまい。今のままでは、戦線が保たんからのぅ」
「後ろの一個軍団はどうしますか?」
「たまには、若いもんに甘えてみるのもいいだろう。坊の心づけ、無視したのでは師としては失格じゃからの」
「なるほど」
ウェルズリーは自慢の三つ編みをいじって笑った。ワイバニア軍の死角には、未だアルレスハイム連隊が息をひそめている。フランシスは彼らに賭けたのだ。フォレスタル軍人、アンジェラ・フォン・アルレスハイムの戦いが始まろうとしていた。