第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第九話
「何と言う男だ。たった一個軍団で、我が軍の精鋭三個軍団を翻弄し、かつ余裕を見せるとは……」
先鋒軍から後方、数キロの地点にいたワイバニア第一軍団長ハイネ・フォン・クライネヴァルトはフランシスの戦いぶりに嘆息した。
「お前も戦いたいって顔だな」
ハイネの背後で声がした。ワイバニア第三軍団長マンフレート・フリッツ・フォン・シラーだった。シラーは笑うと、双眼鏡を構えた。
「……これは、何てじいさんだ。アウブスブルグ先輩と、リピッシュ、ヒッパーのおっさんがまるで子ども扱いじゃないか」
シラーは口笛を吹いた。
「あぁ、まさに芸術と言える手並みだ」
「お前にあれだけのこと、できそうか?」
シラーの挑発的な笑いを、ハイネは不敵な笑いで返した。仕合うてみたい。生粋の戦士であり、将であるハイネは血沸き立っているのを感じていた。その様子を見たシラーはハイネに肩を置いた。
「少しは自重してくれよ。ハイネ。また、お前と戦うのはごめんだからな」
「頼んだぞ。第二陣がバラバラになってしまったら、全軍に影響するからな」
シラーは釘を刺した。ハイネは有能な将であり、最強の戦士だ。だが、あまりに若い。若さ故に猪突することも多い。それを止めることが出来るのは唯一シラーだけだった。シラーは敵と戦うことに加えて、ハイネを猪突しないように、見守らなければならなかった。
「すごい……これが、アルマダ最高の将の戦い……」
ハイネとシラーの間を、小さな影がすり抜けた。第十二軍団長のヴィクター・フォン・バルクホルンが双眼鏡をのぞき込んだ。初々しい後輩の姿に、シラーは微笑むと、傍らの親友に言った。
「俺たちはここで待機した方がよさそうだな」
ハイネはうなづくと、前にいるヴィクターに言った。
「バルクホルン。貴公も刮目することだ。このような戦い、恐らくもう二度と見られないだろう。……中軍はこのままの位置を維持。先鋒への手出しは無用。かえって我々の存在が邪魔になるだろうからな」
ワイバニア帝国第二陣は現状を維持した。最前線ではワイバニアとフォレスタルの精兵たちが凄惨な戦いを繰り広げていた。