第一章 オセロー平原の戦い 第二十六話
「ひるむな! 中央突破あるのみだ」
矢の雨にひるむことなく、騎兵隊は持ち前の突進力を活かして、ヒーリー軍の鶴翼陣形を突破した。それを見たヒーリーは指をはじいた。
「ようし。かかったな。弓兵隊、直ちに騎兵隊の背面に展開。後ろから包囲してやれ」
ヒーリー軍は中央突破されたまま、敵騎兵隊とすれ違い、後方に再び鶴翼陣形を形成した。
「ようし、撃てぇ!」
近衛旅団弓兵大隊長のウォーリー・モルガンが立派な口ひげをゆらして叫んだ。ワイバニア軍騎兵隊の上から、左右から逃げ場なく矢の嵐が吹き荒れた。ワイバニア軍騎兵はその突進力を逆手に取られ、フォレスタル軍の十字砲火にさらされることになった。ワイバニア軍もこれに手をこまねいて見ていた訳ではなく、ジークムントは陣形転換に時間がかかる歩兵よりも騎兵の機動力と突進力が来援に適していると考え、左翼に展開していたもうひとつの騎兵大隊を救援に向かわせた。
「そうはさせるか! 馬防柵、一気に引け!」
フォレスタル攻城兵大隊長のローリーが号令を発した。せえのと言う、攻城兵達のかけ声とともに、ワイバニア騎兵の前に巨大な馬防柵が幾重にもそびえ立った。
「おのれ……こしゃくな!」
ワイバニア第十軍団第二騎兵大隊長、マックス・グーデリアンは愛馬を止めて、地団駄を踏んだ。馬防柵は騎兵の進路を防ぐよう、巧みに配置されており、これを迂回していたのでは、救援に間に合うことは不可能だった。かといって、飛び越えていくことも不可能で、破壊して進むこともなおのこと時間がかかってしまうことが予想された。
「騎兵隊は何をやっている?」
怒気と殺気を全開にして、ジークムントは怒鳴った。機動力が自慢の第十軍団がその機動力を封じられ、攻撃を受けているのだ。ジークムントは今にも血液が沸騰しそうな真っ赤な顔を副官に向けた。
「重装歩兵、ならびに歩兵大隊を敵の背後につかせよ。突進だ!」
「しかし……それでは、陣形転換に時間が……」
「いいからやれ!」
火山が噴火したような大声で翻意を促す副官を一喝した。第十軍団の主力はのっそりと陣形を変え始めた。
「よし、今だ。弓兵隊反転。敵に側面攻撃をかける」
攻城兵大隊と弓兵隊の活躍で、右翼の騎兵大隊を壊滅させたヒーリーはすぐに陣形を変え、二個弓兵大隊にワイバニア軍本隊に側面攻撃をしかけさせた。
ワイバニア軍第十軍団本隊はフォレスタル軍を攻撃すべく、陣形転換の最中であり、離れた場所から矢の雨を降らされたため、ワイバニア軍の方陣側面に配置されていたワイバニア軍第二歩兵大隊は総崩れになった。
「今は陣形が変わるまで待つしかない。なんとしてもこらえろ!」
第二歩兵大隊長、アルバート・フォン・アンドレアスが矢に逃げ惑う部下達を叱咤した。ワイバニア兵達は頭上に降り注ぐ矢の雨を盾で防ぎながら、反撃の時を待った。
そして、ついにその時が来た。ヒーリーが率いた二個弓兵大隊の眼前につわもの共の壁がそびえ立った。