第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第五話
「……なぜ、ですか……?」
マレーネは食い下がるかのように尋ねた。信じられない。そんな表情を浮かべていた。
「お主はたいそう賢い娘さんのようじゃの。交渉の仕方をよく心得ておる。頭のいい人間なら二つ返事で降伏するだろうて」
「私は……」
「わしは頭も悪く、古い人間でな。フォレスタルという国が好きなんじゃ。友が、弟子が、息子が、そして部下達が守った森と川、湖にあふれたフォレスタルがの」
マレーネの言葉を遮り、フランシスはおだやかに語った。まるで孫娘に語るかのような優しい口調で。フランシスはマレーネに尋ねた。
「仮にお主に降伏したとしよう。メルキドとフォレスタルはどうなる? 民はどうなる?」
「それは……」
マレーネは言葉に詰まった。「寛大な処置」ではこの老人は納得しない。皇帝は恐らく苛烈な占領政策を敷くことだろう。マレーネの立場では善処出来ることなど知れている。いや、皇帝であれば、マレーネの首など容易にすげ替えるであろう。ワイバニア勝利後には何も保証出来るものなど無いとマレーネは思った。
「だから戦うのだ。心付けは嬉しいが、武人は刃で語るもの。美しいご婦人だからとて、手は抜かんぞ」
この強固な意志は崩せない。マレーネは前髪をたらし、下を向いた。
「……残念です……」
「わしもじゃ、お主と旗を違えずに出会っていたらのぅ……」
「はい。私はあなたに様々な教えを請うたでしょう。あなたのもとで学んだ人たちが羨ましい……」
「……交渉は終わりじゃな」
フランシスはマントを翻し、自陣へと馬を走らせた。マレーネは背を向け、フォレスタルの英雄に一礼すると、自らの陣へ戻っていった。
「やはり、交渉は決裂か……」
第二軍団に翻った信号旗を見たリピッシュはひとりごちた。
「全軍、戦闘体勢。戦が始まるぞ! 気を引き締めろ!」
リピッシュは部下達に檄を飛ばした。先鋒4個軍団と、フォレスタル第一軍団の戦いがついに始まった。