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第五章 決戦! 第八十七話

「……ぁ、あぁぁぁぁっ!」


ワイバニア軍の野営地の中心、皇帝専用テントに女の嬌声が響いた。女は男に体を重ねると、激しく動き回った。


「ん! ……んぅ!」


女は短く声をのむと、男の胸に倒れ込んだ。女の息が荒く男の胸を打つ。男は女を自分のもとに引き寄せると、唇を寄せた。男が主導権を握るのを許さなかったのだろう。女は男をベッドに押さえつけると、自分から唇を押し付けた。


「ん……ん、ん! んぅぅぅっ!」


まるで、男を蹂躙するかのように女は暴れた。理知的な印象は影もない。獣のように女は男をむさぼった。


「……シモーヌ。何を考えている」


情事を終え、ガウンを羽織ったワイバニア皇帝ジギスムントはベッドから身を起こし、シモーヌに尋ねた。汗に濡れたシモーヌの裸身はろうの灯りに照らされ、怪しくぬめ光っていた。


「なんでもないわ。ただ、最後の夜を愉しみたかっただけ」


シモーヌは艶やかに笑った。この世に生を受けて数百年。この笑みで、幾多の男を籠絡させてきたことだろう。ジギスムントは吐き捨てるように笑い返した。


「そうだな。明日、俺は全てを手に入れる……。今夜はメルキド、フォレスタル最後の夜になる……」


わかっていないのね。心の中でシモーヌは冷笑した。ジギスムントは過去、どのワイバニア皇帝もなしえなかった覇者の道を信じられないほどの早さで極めつつある。だが、それ故に足許が見えていない。寝首をかく隙は十分すぎるほどある。今のうちに甘い夢に酔いしれているがいいわ。妖艶な姿の下で、シモーヌはジギスムントを消す算段を立てていた。


「明日が楽しみだ……。明日、俺は世界の王になるのだからな」


グラスに注いだぶどう酒を一気に飲み干したワイバニアの若き皇帝は声高く笑った。その狂気に満ちた笑いは、テントの外にまで響き渡った。

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