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第五章 決戦! 第八十五話

同じ頃、ワイバニア軍皇帝専用テントのほど近くにある第一軍団長専用のテントに三人の軍団長が集まっていた。第一軍団長ハイネ・フォン・クライネヴァルト、第三軍団長マンフレート・フリッツ・フォン・シラー、第七軍団長ベティーナ・フォン・ワイエルシュトラスの三人が一同に会し、互いに酒を酌み交わしていた。


「ところで、どうして貴公がここにいる? 私はマンフレートと酒を飲む約束をしていたのだ」


盃の中のぶどう酒を飲み干したハイネが不機嫌そうに尋ねた。


「いいじゃない。私をのけものにするなんてひどいよ。ハイネ君の意地悪。それに、男二人で飲むなんてやーらしんだ。何か変なこと考えてるんでしょ?」


「貴公……っ!」


目を輝かせ、くるくると回るベティーナをハイネは睨みつけた。今すぐにでも剣の錆びにしてやると言わんばかりのハイネにシラーは新しいぶどう酒をつぎ直し、一触即発の事態を回避した。


「悪いな。俺がうっかり先輩に喋ってしまったんだ。あの性格だから、断れなくてな」


「何言ってるの、シラー。大勢で飲む方が楽しいに決まってるわ。本当はヴィクター君も誘いたかったけど、あの子はまだ子どもだから、大人の時間はダメなの」


28歳という年齢とはとても思えない口調でベティーナは胸を張った。


「それに……ハイネ君、お兄さん亡くなられたでしょう? 少しは明るい方が気分がまぎれるかと思って……」


「貴公……」


「先輩……」


ベティーナはベティーナなりにハイネを思いやって、ここに来ていた。恐らく、シラーの約束などなくとも、ハイネのもとにやってきて、自己流の慰めをしたであろう。多少屈折しつつも、面倒見のよいのベティーナをシラーは笑った。


「何? シラー。笑っちゃって、気持ち悪いわよ」


「は、ははっ。そんなことないですって! 先輩、お酒なくなってるじゃないですか。つぎますよ。ハイネ、お前も飲め。明日に支障がない程度にな!」


「あぁ、分かっている。マンフレート」


「シラー! ちょっと、そっちのおつまみとってよ」


こうして、三人の奇妙な宴は夜が更けるまで続いた。


「それじゃ、ハイネ。明日戦場でな」


「あぁ、武運を祈っているぞ。マンフレート」


ハイネは親友と固い握手を交わした。後輩達のやり取りに、一同の最年長であるベティーナは優しく微笑んだ。その表情をみたハイネは意外そうにベティーナの顔を見下ろした。


「貴公にも、そのような顔が出来たとは驚きだな」


「あっ、ひどーい、ハイネ君。私だって女なんですからね。それくらいの顔はしますよー。……ハイネ君、死なないでね」


ベティーナはハイネに舌を出すと、深刻な表情に戻した。


「その言葉、そっくり貴公にお返しする」


「何? 私が頼りないって言うの?」


「それ以外に聞こえなかったか?」


「ひどいよね。そんなに冷たいと、女の子にモテないよ? ハイネ君。……生き残ったらお菓子いっぱい買ってくるね。ヴィクター君と一緒に食べましょう?」


「断る」


ハイネはベティーナの提案をにべもなく断った。


「……貴公の買う安い駄菓子では私の舌が曲がってしまう。ケルンの一日限定20個の特製ザッハトルテなら、喜んでいただこう」


「は、はは……。朝イチから並ばないと大変だ……」


「決して、死に急ぐな。私にザッハトルテを持ってくるまでな」


そう言うと、ハイネはベティーナに背を向けた。ハイネなりの素直でない思いやりだった。美しく伸びたハイネの金髪からは朱に染まった耳が見え隠れしている。決して弱みを見せない筆頭軍団長のかわいらしい姿に、ベティーナは吹き出した。


「笑うな! 斬るぞ」


「ふふ。それじゃ、斬られる前に退散しないとね。シラー、行くわよ」


「は、はい」


自分よりも上位の軍団長であるシラーを従えて、ベティーナはハイネのテントを出て行った。

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