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第五章 決戦! 第八十一話

星王暦2183年7月16日、フォレスタル軍第五軍団アルレスハイム連隊連隊長、アンジェラ・フォン・アルレスハイムは連合軍先陣であるフォレスタル第一軍団の本陣を訪れていた。


「これは、アルレスハイム卿、よくぞ来てくだされた。礼を言います」


フォレスタル随一と言われた英雄はアンジェラを暖かく出迎えると、作戦室の椅子に着席を促した。アンジェラはピットに一礼すると着席した。自分の孫のような年齢のものにも、丁寧な態度で接するフランシスに、アンジェラは戸惑った。


「ピット軍団長、私は貴族ではなく、ただの王室の食客に過ぎません。それに、格としても軍団長よりも下です。そのような態度をとられては……」


「困るか……。いや、すまんかった。わしとて、お主とはそれほど話しておらんかったものでな。どうやって接したものかと……。ふふ、明日死ぬと分かっていても、こういうことはいまだに良く分からないものだ」


「ピット軍団長……」


「……それで、お主が来たのは坊の差し金か?」


「はい。軍団長殿を援護して欲しいと……」


「坊らしいな……」


ピットはため息をついた。非情になれと言ったはずなのに、まだ優しさを捨て切れていない。それとも、これが優しさの最後のひとかけらなのか。フランシスには分からなかった。


「私は、あなたと一度話をしたいと思っておりました」


「ふ。わしもだ。ワイバニアの軍団長。……とくにグレゴールとは幾度となく戦ったものだが、話したことはなかった。敵と語り合いたいとは……。武人とは変な生き物じゃ。お主はかつての仲間と刃を交えることになる。それでいいのか?」


「はい。それも私が望んだ道ですので」


アンジェラは顔色を変えずに言った。


「お主の目はそうは言うておらんぞ。敵を憎むことは当たり前だが、お主の場合は違う。敵はお主の戦友達じゃ。彼らを憎むにはお主の目はあまりに優しすぎる」


フランシスは諭すように言った。アンジェラは目を見開いた。老雄は彼女の気持ちを見透かしていたのだ。敵を殺す覚悟は決めていた。しかし、本心では、彼女は迷い、葛藤し続けていた。いざ戦いになった時、自分は非情になりきれるのか。冷静な表情の下で、彼女は悩み苦しんでいた。


「ピット軍団長。お教えください。私はどうしたら、どうしたら戦うことが出来るのですか……」


アンジェラは小さい声で言った。それは普段のアンジェラからは想像もつかない弱々しい声だった。恐らく誰にも見せたことのない本当の姿。誰よりも強い女であろうと彼女はずっと心に仮面を付けていたのかもしれない。


「アルレスハイム殿。お主はつよい。じゃが、強いものほど、本当は弱いんじゃ。強固な堤も、小さな穴ひとつで崩れてしまうように。いつもどこかにもろさはある。素直になれ。弱さも見せるのだ。そうすれば、いつでも自然体でことに向き合える」


仮面をとるということか。美貌の女将はそう理解した。なき盟友ヨハネスも、ずっと仮面をとって欲しいと言っていた。もしかしたら、仮面そのものではなく、心の仮面をも取り去って欲しいと思っていたのかもしれない。


「ありがとうございました。ピット軍団長。我々は第一軍団を援護いたします。一個軍団くらいは、引き受けて見せましょう」


アンジェラは、細く白い手をピットに差し出した。ピットは笑うと、アンジェラの手を固く握った。


「無理はするな。お主達は生き残らねばならん。坊や、マクベス、エリク達のために、フォレスタルの未来のために。そして、何よりお主達自身のために。そのためになら、この老骨の命。いつ差し出しても惜しくはない」


もとワイバニア、フォレスタルを代表する英雄二人は互いに背を向けると、それぞれが役割を果たす場所へと戻って行った。

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