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第五章 決戦! 第八十話

「こいつは負け戦だ。敵を皆殺しにしても意味がない。敵方のタイミングに合わせて、こちらも退却するんだ」


双眼鏡を下ろすと、ベーレトは感情を抑えて言った。なんということだ。甚大な被害を受けていながら、敵の補給部隊を逃がしてしまうとは。信じられないほどの醜態だった。しかし、彼にはエリザベス隊を全滅させるほどの兵力は残っていなかった。彼女を襲った10個中隊が、彼の投入出来るほぼ全ての兵力だったのである。


双方の将はどちらも、自分が敗北したと感じていた。


戦略的に言えば、補給物資をヒーリーに届けた時点でエリザベスの勝利であっただろう。しかし、戦術的にはベーレトの勝利だった。エリザベスの背後を襲った部隊は、彼女の後衛を壊滅状態に追い込み、彼女の命をほとんど手中に収めていたのだから。


エリザベスの攻撃が緩んだ瞬間、ベーレトは左手を上げた。「全軍退却」の合図だった。エリザベスの後衛を血祭りに上げた別働隊は、整然と退却を始めた。


「姐さん、敵が退却を始めましたぜ」


「あぁ……。そうか。敵は見逃してくれたんだねぇ……」


「姐さん……」


エリザベスは低く笑い出したが、すぐにそれは嗚咽へと変わっていった。完敗だった。敵は自分の命をいつでも奪える状態だった。だが、そうしなかった。彼女のプライドはずたずたに引き裂かれた。敗北感が彼女の心を満たし、地面に幾滴も雫が落ちる。命が助かった。だが、それは自分の手でつかみ取ったものではなく、敵からの施しによるものだった。悔しい。けれど、心のどこかでは喜んでさえいた。命長らえたことに対する喜びだった。その喜びは彼女が甘受しえないものだった。優秀な戦士であり指揮官である彼女は敵の施しを潔しとする性格を持ち合わせていなかったのである。


「ぁ、あぁぁぁぁぁっ……!」


声にならない叫びがいつまでも虚空に響いていた。星王暦2183年7月15日、脇街道の攻防戦は双方に甚大な損害を出して幕を閉じた。

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