第五章 決戦! 第七十九話
「姐さん! 奴ら強い。こっちの損害も無視出来ませんぜ!」
「しくったねぇ。まさか、これほど強いとは……」
10人目の敵を斬り終えたエリザベスは、荒く息をついた。不愉快なことに敵の強さは彼女の予想の遥か上をいっていた。鍛え抜かれた白兵戦能力と射撃力に加えて、巧みな集団戦法。それも軍団単位のものではない。小隊、分隊単位の統率された戦術。陸戦隊の常識にはない戦術にエリザベスは戦場を支配しながらも、翻弄され続けていた。
「いまいましいねぇ。両翼の中隊の包囲をせばめるよ。逃げられないようにするんだ。伝令、頼むよ!」
敵兵の返り血にまみれた美姫は、部下に命じた。
伝令がエリザベスのもとを離れてすぐ、別の伝令が血相を変えてやってきた。
「姐さん! 背後から敵襲! 数、1,000! 後衛の第七から第十中隊が交戦中!」
「なんだって!?」
「第七、九、十中隊は壊滅! 第八中隊は健在ですが、いつまでもつか……」
「くそ、なんてこった」
エリザベスは地面を蹴り上げた。背後から攻めてくることは十分に予想できた。そのため、彼女は精鋭の4個中隊を後衛にまわしていたが、ここでも、傭兵達は彼女の予想を裏切った。ベーレトは後方に下げた兵力と予備兵力をあわせた兵力1,000あまりを陸戦隊の後方に迂回させて攻撃を仕掛けたのである。
フォレスタル後衛は果敢に応戦したが、倍以上の数である。戦線を維持するのは困難だった。
エリザベスは判断に窮した。全部隊の反転が間に合いそうにない。後衛の3個中隊は壊滅。反転して救援に向かうにも時間がなさ過ぎる。優勢であるはずの水軍陸戦隊は、一瞬にして窮地に陥った。
「できるだけのことはする! 弓兵中隊、装甲馬車中隊は反転、第八中隊を援護。残りの機動歩兵は……あぁ、いまいましい! 機動歩兵中隊は残敵を掃討しつつ、一個中隊ずつ反転、後方の敵に当たれ」
最悪の命令だった。自分でも胃液が逆流しそうなくらいだ。だが、これが彼女に出来る最善の策だった。勝っていた。今も勝ちつつある。それなのに、今、彼女の中を敗北感が満たしていた。
「く、くそったれぇぇぇ!!」
カトラスを地に刺し、エリザベスは天に向けて絶叫した。戦場に、エリザベスの叫びがこだましていた。