第五章 決戦! 第七十六話
「やられた……!」
ベーレトは歯がみした。エリザベスの術中にまんまとはまってしまったのである。
「あっはっは。こいつはいい! 面白いくらい敵が引っかかってくれたよ」
ベーレトとは反対にエリザベスは高笑いしていた。エリザベスは脇街道に入る前に隊を二分していたのである。ひとつは補給物資と護衛隊2,000を振り分けた本隊。もう一つはエリザベスが直率する陽動専門の特殊部隊。脇街道より南の街道は未だメルキド軍の勢力圏内であり、比較的安全が確保されていたのである。エリザベスは遠回りになる街道を行く本隊に快速馬車をあてがって合流を急がせると同時に、鈍足の装甲馬車を陽動部隊に振り分けて囮としての価値を増したのである。
自分が襲撃した部隊が真っ赤な偽物であると知ったベーレトは撤退を指示した。
「野郎ども! 斬り込むよ! 第十一から第十五中隊は正面。第一から第三中隊は左翼、第四から第六中隊は右翼だ! さぁ、いけいけいけぇ!」
エリザベスは持てる戦力のほとんどを前面の敵に投入した。敵も一騎当千の傭兵ではあるが、エリザベス達も劣らぬ武勇の持ち主である。しかも、数も多い。たちまちのうちに雁部隊は劣勢になっていった。
「隊長からは退却命令が出ているんだぞ! さっさと退くんだ!」
「こいつら……やる!」
雁と陸戦隊の激闘は続いていた。意外なことに劣勢にありながらも傭兵達は善戦していた。これは陸戦隊の強さが兵士個人の実力に依存するものだったのに対し、雁部隊はそれに加えて、小部隊による兵力の運用も得意としていたためである。彼らは隊伍を組み、効率的な射撃と、防御、そして白兵戦闘によって、エリザベスら陸戦隊と局地的には互角の戦いを演じていたのである。
「ちぃぃ、やるねぇ……」
自慢の剛剣で屈強な傭兵を一刀のもとに斬り捨てたエリザベスは舌打ちした。雁の1.5倍の兵力を投入しているのにも関わらず、敵を壊滅に追い込むことが出来なかったのである。