第五章 決戦! 第七十五話
「大したもんだよ。敵の親玉は。第一次攻撃で足が止まると思ったんだけどね。第二次攻撃用意。弓兵中隊は掃射用意!」
敵の進撃にエリザベスは舌打ちすると、次の命令を下した。
一方、フォレスタル軍の隊列まであとわずかのところまで攻め込む部下達にベーレトは満足そうな表情を浮かべていた。
「油断するな。狙撃兵を仕込むくらいの奴らだ。次は何をしてくるかわからんぞ」
顔は笑みさえ浮かべていたが、目はまったく笑っていなかった。エリザベスが食わせ者であることを彼はよく承知していた。彼はエリザベスに気づかれぬように、5個中隊を後方にさがらせた。予備兵力として7個中隊、700の兵を残していたが、彼は最終局面で工夫を凝らすためにさらに兵力を必要としたのだった。
「ようし……あともう少しだね。装甲馬車中隊、カタパルトとバリスタを用意……」
双眼鏡も必要のないくらいに近づいた敵を見たエリザベスは次の攻撃の準備を命令した。
時を同じくして、互いの軍がそれぞれの弓兵の射程に入った。
「隊長、敵軍が射程に入りました!」
「姐さん、敵が射程に入りましたぜ!」
「「撃てぇ!」」
両軍の隊長は、ほぼ同時に号令した。両方の軍からはおびただしい数の矢が飛び交った。ワイバニア軍の矢は一定時間飛ぶとひとりでに発火し、隊列の幌馬車に襲いかかると、馬車を火だるまにした。馬の悲鳴が聞こえたが、幌馬車は静かに燃え盛っていた。
一方で、フォレスタル軍の矢はワイバニア兵に殺到すると、その多くを串刺しにした。
「ふっ……仕込みをするまでもなかったな……?」
ベーレトは双眼鏡を覗き込んだ。不自然。不自然なのだ。幌馬車の中は兵員だけではない。可燃物を満載している。ならば、大きな火柱を上げて燃えるはず。しかし、幌馬車は燃え上がるどころか鎮火し始めている。崩れかけた幌馬車の残骸から、ベーレトの予想もしないものが姿を現した。
「あれは……」
「第二次掃射用意! カタパルト、バリスタ、撃てぇ!」
幌馬車の残骸から、鋼鉄の板で守られた装甲馬車が現れた。小さな銃眼からは矢が、屋根からは大型の攻城弓、バリスタの大きな矢と投石機からの砲丸が放たれた。