第五章 決戦! 第七十四話
息を殺し、気配を消す。茂みの中、木の影。様々な場所に彼らは潜んでいた。狙うはワイバニア兵の首ひとつ。卓越した腕を持つ射手たちは、敵の襲来をスコープ越しに待っていた。
雁部隊の先陣が、狙撃手の射界に突入した時だった。
「敵陣まであとわずかだ。全員、気を……」
先頭の分隊長は、そこまで言って倒れた。彼の首からは鉄の矢が生えていた。
「身を低くしろ! 狙撃手がいるぞ!」
二人目の犠牲者は味方に危機を知らせることが出来ただけ、幸福だったかもしれない。二人目は頭を射抜かれ即死した。どこから来るかわからない狙撃手からの攻撃に、傭兵達はその進撃の足を止めた。
「長距離からの狙撃を受けて、先鋒の足が止まっています。いかがなさいますか?」
副官のツェルナーの言葉に対し、ベーレトの返答は極めて冷淡だった。
「突撃」
「そんな……。狙い撃ちにされますよ」
「一度に3,000人殺されるわけではない。今のように動かない方が危険だ。伝令を走らせろ」
ベーレトはツェルナーに命じた。ツェルナーは翻意を促そうとしたが、ベーレトの表情を見てそれが無駄だと悟った。餓えた狼のような眼差し、いや、鬼神に取り憑かれたというべきか。戦いの最中のベーレトは他の誰にも止められない雰囲気を持っていた。
ベーレトの命令を受けた傭兵達は整然と隊列を組んで、エリザベス達の許へ押し寄せた。陸戦隊最精鋭の狙撃手達は果敢に敵を狙い撃ちにしたが、大きな波に小石をぶつけてもせんないこと。ベーレトの予言通り、多少の損害は出したものの、雁部隊はほぼ順調に敵陣へ向かっていた。