第五章 決戦! 第七十三話
「姐さん!」
ノックもなく、エリザベスの私室のドアが開いた。
「なんだい? 騒々しいねぇ」
エリザベスはだるそうにソファから身を起こした。
「敵襲です。数、およそ三〇〇〇!」
「……なんだって?」
部下からの報告に、エリザベスは端正な眉をぴくりと上げた。
「全部隊、戦闘準備は出来ています! あとは姐さんの下知を待つだけですぜ!」
「そのまえに、敵さんを見ないとどうにもならんさね。ついといで」
エリザベスは自分の馬車の屋根に上がると、敵の隊形を観察した。まだ、自陣まで攻め込まれるには時間があるが、隙がなく、しかも訓練の行き届いた陣形だった。敵はエリザベスの予想の最悪をいっていた。経験を積んだプロ中のプロ。正規軍以上の強さだろう。並の将なら震え上がるところだったが、フォレスタル最強の戦闘集団を率いるフォレスタルきっての女傑は笑みさえ浮かべていた。
「くっくっく……。ヒーリーに感謝しないとねぇ。フォレスタル水軍陸戦隊が本気を出して戦う時が来たようだ。全装甲馬車中隊は進軍中止。敵が射程に入り次第、一斉掃射をかけろ。第一、第二狙撃中隊は射程に入り次第各個に射撃開始。頭を出してきた馬鹿どもを射抜いておやり! 第十一から第十五上陸歩兵中隊は斬り込むよ! 馬車に隠れて準備しな! あたしらにケンカを売ったことをとくと後悔させてやんな!」
エリザベスは羽織ったコートを翻して命令した。
「はい! 姐さん!」
「……ちょっと、姐さんはやめとくれよ。これでも、お姫様なんだからね。泣けてくるよ」
男ですら恐れおののく陸戦隊長は部下に言った。
「さぁて。水軍陸戦隊の力、見せてやるよ。見物料は、あんたらの命で支払いな」
ウェーブのかかった濃緑色の髪を風になびかせ、戦姫は不敵に微笑んだ。彼女の遥か前方には、歴戦の傭兵達が雪崩をうって攻め込んでいた。