第五章 決戦! 第七十話
星王暦2183年7月14日、脇街道を行くフォレスタル水軍陸戦隊長エリザベス・イル・フォレスタルは馬車の中で大あくびしていた。
「ふぁ〜ぁ。まったく、退屈な任務だねぇ、護衛ってのは、引き受けるんじゃなかったよ」
「仕方ないですよ。姐さん。アルレスハイム連隊長に負けちまったんですから」
「それを言うんじゃないよ。あぁ、退屈だねぇ! 敵でも攻めて来ないかねぇ」
エリザベスはキセルを持つと、ゆっくりと火をつけた。時間をつぶすタネにも尽き、エリザベスのいらだちはいよいよ限界に達していた。カトラスを振るうにも狭い馬車の中ではそうはいかず。まして、部隊は移動中。読書にもキセルにも飽き飽きしていた。
副官は、隊長のご機嫌をいかになだめるか頭を悩ませていた。
エリザベスの任務は退屈な時間と労力に比べて余りあるほどに重要なものだった。フォレスタル軍の最新式長弓および、連射弓。これはワイバニア軍に対する切り札とも言える兵器だった。通常の弓矢を凌ぐ長射程と連射力は、必ず戦況を覆す奥の手になる。本国のマクベスが生産を急がせて、ようやく配備が可能になった新兵器だった。
これが、戦闘に遅れてはならないし、ワイバニア軍に捕獲されることがあってもならない。絶対に失敗は許されない重要な任務だった。
「敵さんも、あたし達に食らいついてくれるといいんだがね」
エリザベスは吐き出した煙を器用に輪っかにして言った。ワイバニア軍とフォレスタル軍。二度目の激突の時が迫っていた。