第五章 決戦! 第六十七話
第五軍団司令部、軍団長専用の装甲馬車の中にしつらえた作戦室で、ヒーリーは目を覚ました。
「俺は……?」
「目を覚ましたか? ヒーリー」
椅子をいくつも並べて作った簡単なベッドに寝かされたヒーリーに、兄エリクはさわやかに言った。
「兄上……」
「間が悪かったな。よりによってメアリと一緒の時だとはな。ピット卿もさぞ、激怒するだろうな」
「茶化さないでください。兄上……。それは?」
ヒーリーはアストライアの入った鞄に目を向けた。
「お前の新しい魔術銃だ」
「そんな。だって、ラグは……」
「ラグは今眠りについている。だが、その前に彼はもう一丁の魔術銃を完成させていたんだ。本当は、ポーラに渡して欲しかったのだが……」
エリクは足元の鞄に視線を落とした。ヒーリーは顔を天井に向けると、兄に言った。
「兄上、その銃。アストライアは受け取りませんよ。受け取るのは、ポーラからだ」
「そうだな。立てるか? 疲れているのは分かっているが、まだ、お前の力が必要だ」
「えぇ、もう大丈夫です」
ヒーリーは、兄に微笑むと、ゆっくり体を起こした。ちょうどそのとき、作戦室の扉が開いた。ゆっくりと開いた扉の陰から、ヒーリーのもっとも会いたがっていた人が姿を現した。
「ノックが欲しかったね。ポーラ」
エリクはポーラに目を向けた。とがめているが、怒ってはいない。そんな表情だった。
「すみません、エリク様」
「謝るのは俺ではない。そうだろう? ポーラ」
エリクはヒーリーを立たせると、勢い良く背中を叩いた。エリクはさらに足元の鞄を持つと、ポーラにそれを手渡した。
「これを渡すのは、君の仕事だ。ポーラ。弟を頼む」
「頑張れよ。ヒーリー」
作戦図を見ながら、エリクはつぶやいた。戦いに対して、ヒーリーの不器用な恋に対しての声援だった。空前の作戦を前に、兄にはそれくらいのことしか出来なかった。