第五章 決戦! 第六十話
「連合軍、恐るるに足りず!」
ワイバニア帝国皇帝、ジギスムントは軍議が始まって早々、居並ぶ軍団長達に言い放った。
「それはどういうことですか?」
ワイバニア軍第二軍団長のマレーネ・フォン・アウグスブルグが玉座に腰掛けた皇帝に尋ねた。ミュセドーラス平野で連合軍が待ち受けているのだ。数の劣勢を覆す策を講じているに違いない。史上空前の大軍勢を有しているとはいえ、楽観視出来る状況ではなかった。
「決まっているだろう。アウブスブルグ軍団長。我々の方が遥かに数が多い。物見の報告では敵兵力は八個軍団、我々は一〇個軍団。これだけでも十分に有利だ。その上……」
「これからの説明は私がするわ」
ジギスムントに続いて、右元帥のシモーヌ・ド・ビフレストが席を立った。軍服とは思えないほど煽情的な服に身を包んだ美貌の女軍師は指揮杖を手に身を翻すと、ダンスと見まごうばかりのしなやかな動きで陣形図を指し示した。
「様々な情報を総合すると、連合軍は私達の侵入口を取り囲むように鶴翼陣形を敷いているわ。侵入口を変えれば敵の裏をかけると思うけれど、残念ながら、十万を超える兵が侵入できるのは、ここしかないわ。そこで、全軍を魚鱗の陣形で突入させ、敵軍左翼から各個撃破するの。突入口はメルキド軍第四軍団よ」
シモーヌは自軍の陣形をさした。ワイバニア軍の先陣がメルキド軍の中央を突破しつつ、左翼を打ち破る姿が示されていた。敵左翼を撃破した後は、追いすがる敵右翼を牽制しつつ、残存兵力を掃討し、ミュセドーラス平野にそって円運動を描きながら、牽制されていた敵右翼を正面から撃滅する。それが、ワイバニア軍の戦略だった。