第五章 決戦! 第五十六話
馬車の外に残されたヒーリーは相棒に語りかけた。
「メアリ・・・・・・」
「どうして言ってくれなかったの・・・・・・?」
「ごめん」
「私は軍人よ! 作戦だって理解出来る! これ以上の作戦がないことも、お祖父様を囮に使わなければならないことだって・・・・・・」
ヒーリーは何も言えなかった。彼女を思い告げられなかったことが、かえって彼女を苦しめることになるとは。だが、それはヒーリーの自分可愛さのためのごまかしではなかったか。ヒーリーはメアリに頭を下げることしか出来なかった。
「ごめん・・・・・・メアリ」
ヒーリーはメアリを背に作戦室の扉に向かった。
「ヒーリー!」
メアリはヒーリーに追いつくと、彼の背中を抱いて泣き崩れた。10年来見せたことのない親友の涙。ヒーリーは振り向くことなくただただ、メアリに背中を差し出していた。
小休止ののち、タワリッシ主導で軍議が再開された。作戦の骨子は既に伝えられていたので、あとは各軍団の配置が決定された。鶴翼陣形中心部は守勢に優れたメルキド軍第二軍団と第五軍団、左翼には第四、第六軍団、右翼にはフォレスタル軍第三、第四軍団が配置された。ヒーリー率いるフォレスタル軍第五軍団は、本陣直衛と予備兵力として、後方に配置され、囮となるフランシス率いる第一軍団は先陣としてミュセドーラス平野入り口に配備された。
さながら翼を広げた翼竜の陣。これが決戦における連合軍の陣容であった。
「フォレスタル軍総司令官として、一軍団長として自分の軍団の指揮は自分に全て委ねて欲しい」
ヒーリーはタワリッシに提案した。タワリッシがフォレスタル軍を捨て駒にする人物ではないと信じていたが、作戦に関して独自の裁量権を得ることで、フォレスタル軍の安全と王国の体面を守ろうと考えたのだ。タワリッシはヒーリーの政治的配慮を見抜いた上で、これを承認した。ワイバニア撃滅という確固たる戦略目的がある以上、ヒーリーはメルキド軍の不利になるようには動かないと判断したのである。
星王暦2183年7月11日、最初の軍議は多少の衝突はあったものの、滞りなく進んでいた。