第五章 決戦! 第五十五話
ウィリアムはヒーリーを無理矢理馬車の外に連れ出すと、渾身の力を込めてヒーリーを殴り飛ばした。
「お前・・・・・・何を言ったかわかってるのか? てめぇの師匠に『死ね』っていったんだぞ」
「あぁ。わかってるよ」
ゆらりと起き上がるヒーリーの襟をつかむと、ウィリアムは馬車の壁にヒーリーを叩き付けた。
「ふざけるなよ。ヒーリー。俺はあんな作戦、絶対認めねぇぞ!」
「よさんか!」
フランシスはなおもヒーリーに殴り掛かろうとするウィリアムを怒鳴りつけた。
「冷静になれ、ウィリアム。だからお前は半人前なんじゃ」
「けどよ、師匠!」
「わしのことはいい。既に覚悟は出来ておる。それに、この作戦はもともとわしとタワリッシが立てたもの。わしが囮になるのは最初から決まっていたことじゃ。それとも、お前はわしの作戦にケチを付ける気か?」
師の言葉にウィリアムは何も言えなかった。
「ピット卿、この作戦以上のものがあるかもしれませんわ。皆で知恵を絞れば・・・・・・」
マーガレットはフランシスに言ったが、フランシスはかぶりをふった。
「マギー、この作戦以上のものはないんじゃ。坊が考えた作戦案もこの作戦とまったく同じものじゃった。だからこそ、わしを囮に推したんじゃ。フォレスタルで最高の戦術家二人がまったく同じ結論に達しておる。これが何を意味するかわかるじゃろう? メアリ、総参謀長はお前じゃ。代案はあるかの・・・・・・」
フランシスは孫娘に尋ねた。3人と離れた場所にいたメアリは顔を伏せたまま声を震わせた。
「いいえ、ありません・・・・・・この作戦以上のものは」
ウィリアムは木の幹を殴りつけた。マーガレットも拳を握りしめ、立ち尽くしていた。4人は思い思いの姿で、運命を受け入れようとしていた。
「くそぅ、出来るかよ・・・・・・こんなこと、納得出来るか!」
「坊を責めるな。あいつはずっとこのことで苦しんでいる。お前たちの何倍もな」
ヒーリーは誰とも目を合わせられなかった。自分の師を、友の肉親を失わせる命令を出すことに、ヒーリーはずっと苦しみ抜いて来たのだ。それは、フランシスがいくら言葉を重ねようともぬぐいされはしない。恐らく彼はこの十字架をずっと背負い続けていくことだろう。
「さぁ、作戦室に戻れ。・・・・・・坊、強くなったな。これでわしは思う存分戦える」
フランシスは力なくたたずむヒーリーを立たせ、肩を叩いた。フランシスは軍団長二人を引き連れて作戦室に戻っていった。