第一章 オセロー平原の戦い 第二十二話
「大した威力だ。さすがはメルの最高傑作だ!」
ヒーリーは指を弾いて言った。第二波攻撃隊を火だるまにしたそれは火炎魔術散弾と呼ばれるものだった。
大型の砲弾の中に「火炎」の護符を貼付けた数十個の子砲弾を内蔵した魔術散弾で、投石機による発射数秒後、砲弾が炸裂し、一つの子砲弾につき、半径10mの火球を形成する特殊砲弾だった。
元々は城内の構造物を広範囲に燃やす攻城兵器としてメルが発明したものだったが、試作品を見たラグは開口一番メルにこう告げたと言う。
「フォレスタルの城ならともかく、世界中の城は石造りなんだよ。何を燃やすって言うんだい?」
メルはフォレスタル城を基準にこの兵器を発明してしまったため、ラグの言葉に反論出来なかった。しかし、負けず嫌いのメルはこの兵器に少なからず自信を持っていたため、暇を見つけてはこの散弾を作り続けていた。
ラグは苦言を呈したものの、弟子の意欲そのものを奪うことはしなかった。彼はメルの様子を見守り続けていた。
ラグはメルがあきらめずに魔術散弾を作り続けていることを茶飲み話の席でヒーリーに話した。その時はメルの負けず嫌いな性格を示した笑い話としてラグは話していたのだが、ヒーリーの中にはもう、対龍騎兵の切り札としてこの散弾を使うアイデアが浮かんでいた。
戦場では戦力の大半を失った龍騎兵が色を失っていた。
「何だ? あれは?」
ワイバニア龍騎兵の一人が後ろを振り返った。
「ひるむな。全騎! 急降下攻撃だ!」
先頭を飛ぶ攻撃隊長が言った。後続の攻撃隊は散弾のおかげで、ほとんど戦力が維持出来ておらず、大型翼竜隊は全滅していた。降下を始めた生き残りの龍騎兵隊は突撃するしか血路を開く方法はなかった。
「さぁ、来たぞ。弓兵隊用意! 必中距離で弾幕射撃!」
ヒーリーは再び前衛の弓兵大隊に命令を出した。高速で接近した龍騎兵の一部がヒーリー軍の狙いに気づき、二〇騎あまりが上空へ離脱していった。