第五章 決戦! 第五十二話
星王暦2183年7月11日、ヒーリー率いるフォレスタル軍は当初の予定から1日ほど遅れながらも決戦地であるミュセドーラス平野に到着した。かねてからの打ち合わせ通りにフォレスタル軍はミュセドーラス平野の東半分、鶴翼の右翼に陣取ると、ヒーリーら各軍団長はメルキド軍最高司令官タワリッシがいる本陣を訪れた。メルキド軍の本陣は幾百の重装歩兵と巨兵によって守られ、巨兵国家メルキドの威容をヒーリーたちに見せつけていた。
「さすが武門の国家、ここに極まれりという感じだな」
フォレスタル軍第三軍団長のウィリアム・バーンズが黒光りする鎧の群れを見回した。
「みっともないですわ。バーンズ卿。私達はフォレスタルを代表してここに馳せ参じているのです。国の威信を下げる行いはせぬように願いますわ」
「はいはい」
第四軍団長のマーガレットにたしなめられたウィリアムは口を尖らせた。マーガレットはヒーリーやレイ、ウィリアムには特に厳しい。表立って喧嘩はしないものの、ウィリアムとの仲は最悪だった。
「ははは・・・・・・」
妹のつんけんした態度に苦笑するヒーリーだったが、背後のお目付役の気配に背筋を凍らせた。
「あなたもよ。ヒーリー。もう少し背筋をのばしなさい。総司令官なんだから」
第五軍団参謀長のメアリ・ピットは鋭角三角形の形をした眼鏡を上げて言った。
「なぁ、おいヒーリー。いいのか? 出席は軍団長クラスだけだろう?」
「あぁ、メアリはいいんだ。増援軍総参謀長だからな。全軍の配置と作戦の詳細を知る権利があるのさ。それに・・・・・・」
「それに、何だ?」
「いや、いいんだ。何でもない」
ウィリアムの問いに茶を濁したヒーリーは、そのまま歩き続けた。本陣の中心、総合指揮所になる総帥専用馬車の扉の前で、ヒーリーらは立ち止まった。
「フォレスタル王国軍総司令官、ヒーリー・エル・フォレスタル以下、軍団長格5名、軍議のためにまかりこしました」
ヒーリーは扉の前で大きく息を吸い込むと、声を張り上げた。
「入れ」
低いが、よく通る声がドアから響くと5人を圧していた扉がゆっくりと開いた。作戦室の中は広く、大きな机の上にはミュセドーラス平野の地図が広げられ、メルキド軍の軍団長たちが自軍の打ち合わせ行なっていた。ヒーリーはその中心、長い髪を背中まで下ろし、マントを羽織った男に視線を向けた。男はヒーリーに気づいたのか、背筋を伸ばすと不敵に微笑んだ。
「久しぶりだな。ヒーリー。さっきの声、多少はらしくなったと言うところか?」
「ごぶさたしています。タワリッシ大将軍」
ヒーリーはメルキド軍最高の将に頭を下げた。タワリッシ、メルキド軍総司令官であり、ヒーリー以上にワイバニア軍が警戒している武人だった。40代後半であるというのに、30代とほぼ変わらぬ姿に初めて会うウィリアムとメアリはいぶかしげな表情を浮かべたが、タワリッシはまるでその反応を楽しむかのように笑うと、一同に着席を促した。




