第五章 決戦! 第五十一話
「だーっ! くそっ!」
クリストフは地面を蹴り上げた。暗殺者が去った中庭では、アウグストが応急処置を行なっていた。マリアは意識を失っており、断続的に息をしては、時折血を吐き出していた。
「まずいな。骨折もひどい・・・・・・一刻も早く病院に運ばないと・・・・・・」
「おい、大丈夫か? 夫人の状態は?」
クリストフはアウグストに尋ねたが、新人は上司の問いに答えることなく診断と処置に没頭していた。クリストフは隣に立っていたクララに目を向けたが、クララは黙って首を振った。彼の耳には何も入っていないのだろう。クリストフはかっとなって、アウグストの肩をつかんだ。
「おい!」
「静かにしてください! 診断の邪魔です!」
「大丈夫なのか? 夫人は?」
いつにないアウグストの剣幕におされながら、クリストフは尋ねた。
「正直よくはありません。脚と腕に骨折があります。それに、吐血が見られたことから、落下の衝撃で内臓を傷めたと思います。それに、頭だって打っているかも。すぐに病院へ運ぶ必要があります」
「病院って言ったって・・・・・・それは、マズいだろう。いつまた襲われるとも限らないんだ」
クリストフの言葉に、アウグストは少し考えると、上司に答えた。
「僕に、心当たりがあります。そっちに運びましょう。室長は木の棒とシーツ、クッションを使って、簡単な担架を作ってください。クララ先輩。先輩は馬車をこちらに寄せてください。状態は一刻を争います。急いで!」
「お、おぅ!」
「わかったわ」
普段とはまったく違うクリストフの態度に戸惑いながらも、クリストフとクララはそれぞれの仕事に駆け出していった。
星王暦2183年7月10日、ワイバニア帝国本土でも嵐が吹き荒れていた。