第五章 決戦! 第四十九話
「あなた……」
夫の死をフリードリヒから知らされたマリアは、その場で泣き崩れた。
「ご心配なく。すぐにご主人の許へ送って差し上げます」
フリードリヒはマリアの許に歩み寄ると、血に濡れたナイフを構えた。
「!」
フリードリヒに遅れること一〇分あまり、三人を乗せた高速馬車はようやくマクシミリアンの私邸にたどり着いた。
「ん? おい、まずいぞ、こりゃ。様子が変だ。アウグスト、門につけろ!」
「はい!」
アウグストはクリストフに命じられた通り、馬車を止めた。
「……ふっ」
ナイフを弾かれたフリードリヒは冷酷な笑みを浮かべてマリアを見下ろした。
「この外道……」
そう言って、気丈に自分自身に睨みつける標的に戸惑ったのか、愉しみを覚えたのか、フリードリヒは笑いをこらえられなくなった。
「くっくっく。あはははは!!!」
「……」
「楽しませてくれますね。あなたは。ひと思いに死なせてあげようと思いましたが、気が変わりました」
フリードリヒは端正な顔を歪めていった。その表情はマリアを立ち上がらせるには十分だった。マリアは暗殺者から距離をとった。だが、マリアのいじらしいまでの抵抗はフリードリヒにとってはささいな抵抗に過ぎなかった。フリードリヒはマリアに近づくと、隠し持っていたナイフで斬りつけた。
「……っ」
フリードリヒは鮮血したたるナイフの刃を舐めると、深手にならない程度に何度も斬りつけた。痛みに耐えながら、マリアは暗殺者から逃げ続けたが、バルコニーに追いつめられた。
「それでは、さらばです。クライネヴァルト夫人……」




