第五章 決戦! 第四十七話
「はい?」
マクシミリアン私邸で最初の犠牲者になったのは若い侍女だった。
「私、白虹宮から参りました。ヴィルヘルム・フォン・ヘッセと申します。クライネヴァルト夫人に至急お取り次ぎを・・・・・・」
「はい、少々お待ちくださいませ」
来訪者を家に迎え入れた彼女は、広間の階段を上がるとマリアを呼びに向かった。用済みだと考えたのだろう。来訪者は侍女に向けて投擲用のナイフを放った。
「がっ・・・・・・!」
短く呼気の音と、血しぶきが吹き出す音が静謐な館内にこだました。しかし、それ以上に響いたのは侍女の悲鳴だった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
一階にいたもう一人の侍女を刺し殺した来訪者は、ゆっくりと二階まで歩を進めようとした。
「何ですか? いったい? ・・・・・・ひっ!」
異変を察した二階の侍女が惨劇のあとを目撃したのだった。
「お、奥様! お逃げください! 早く!」
来訪者はさらに侍女の口を塞ごうとナイフを投げたが、幸運なことに侍女に当たることはなかった。まだ、二階に上り終えていなかった賊は侍女にわずかばかりの時間を与えることになった。侍女はマリアの部屋をノックすると、声を限りに叫んだ。
「奥様! お逃げください! 賊が、賊が、あぁぁぁぁ・・・・・・」
声の様子から、マリアが事態が尋常ならざるものだとすぐにわかった。
「分かったわ。あなたも、早く」
「いいえ、奥様。鍵をおかけください。少し時間を稼ぎます。賊がすぐ、そこに・・・・・・」
侍女の声は死への恐怖で震えていた。動くことも出来ないのだろう。マリアは目を固く閉じると、ドアの鍵を閉めた。その数秒後、ドアの外側で侍女の断末魔の声が聞こえた。