第五章 決戦! 第四十五話
「なんということだ。マクシミリアン・・・・・・何故、死んだ?」
ハンスは伝令に尋ねた。
「事故にございます。閣下。ベリリヒンゲン郊外の農道で馬車が横転し、それに巻き込まれたとのことです」
「事故なものか。帝国の首脳ともあろう者が供も連れずにのこのこ畑などに出向く訳がない。マクシミリアン。・・・・・・愚かなことだ・・・・・・」
英明なハンスはそれだけの情報でおおよその事情は推察出来た。独断で皇帝に親書を出し、逆鱗に触れたのだろう。おそらく皇帝はそれだけにとどまるまい。反戦派を一気に粛清するつもりなのだろう。表立っては動けないが、息子の不始末のせいで、人が死ぬのは彼にとっては我慢ならないことだった。
「左元帥書記室のシラー室長を呼べ。大急ぎだ」
ハンスはすぐに伝令に命じた。命令から15分後、白髪頭の大男がのっそりと姿を現した。クリストフ・ザムエル・フォン・シラー。ハンスの親友にして第三軍団長、マンフレート・フリッツ・フォン・シラーの父であった。
「よう!どうした?ハンス。うちのドラ息子が何かしでかしたか?」
「残念ながら私の愚息がな。・・・・・・さっき、マクシミリアンが死んだとの報告が入った」
快活に笑っていたクリストフはすぐに笑うのをやめると、ハンスに頭を下げた。
「すまなかったな。あのマクシミリアンがな・・・・・・惜しい男をなくした」
「私にしてみれば、まだ世間知らずの愚か者だ。・・・・・・ここから先は、息子を亡くした親の独り言だ」
ハンスはクリストフに背を向けた。独り言。それは確たる証拠はなく、表立って自分自身が動けず、立場上公式に発言することが出来ない内容のものであると察することが出来た。クリストフは親友の背中をじっと見つめていた。
「マクシミリアンは反戦派だった。私に陛下へ口添えするように頼みに来た。私が拒んだからだろう。おそらく独断で陛下に奏上し、消された」
クリストフはわずかにハンスの肩が震えているのがわかった。
「陛下は軍によって、力によって世界を征服するとお考えだからな。あれのような軟弱な考えは邪魔だったのだろう。だが、あれに賛同した者までは死なす訳にはいくまい。早晩陛下の手の者が始末に行くことだろう。その前に・・・・・・」
「地下に潜らせろってわけか」
クリストフは一息吐いた。
「こんなことを頼めるのはお前しかいない。やってくれるか?」
「あぁ、あと大事なことを忘れているだろう?」
「何だ?」
「嫁さんだよ。お前の息子。結婚していただろう?早くしないと、彼女も消されるぞ」
クリストフの言葉にハンスは表情を変えた。
「すぐに行動に移る。お前は待っていろ!」
クリストフはドアを破らんばかりの勢いで押し開けると、自分の職場まで戻っていった。
「馬鹿が・・・・・・親より先に死んで・・・・・・愛する者にまで危険にあわすとは・・・・・・本当に馬鹿者が・・・・・・」
ハンスは誰もいなくなった事務室で大粒の涙をこぼした。内務大臣の死が発表されるのは、さらに2日後のことになる。