第一章 オセロー平原の戦い 第二十一話
「撃てぇ!」
弓矢の命中率が低いとは言え、必中距離からの弾幕射撃である。攻撃隊はそのことごとくが矢の雨の洗礼を受け、たちまちのうちに壊滅した。
「何が起こったんだ?」
ブルーノは攻撃隊壊滅の報に耳を疑った。しかしこれは厳然たる事実であり、これは第十軍団の全龍騎兵の約二割を失ったことを意味していた。ブルーノはさらに大型翼竜による落石攻撃と龍騎兵による急降下攻撃を命じた。
この攻撃はすでにハーヴェイの第二軍団を壊滅寸前に追い込んだ戦術であり、ワイバニアにとって必勝必殺の戦術であった。
「ついにおいでなすったな、ワイバニアのお家芸。全員方陣をくずすな。攻城兵大隊、投石機、対空魔術散弾用意」
ヒーリーはメル自慢の新兵器の使用を命じた。
「この攻撃は龍騎兵が投石機の射程内である程度まとまっていないと意味がない。攻城兵隊長、悪いが指示は俺が出させてもらうぞ」
ヒーリーは攻城兵大隊長のローリーに言った。
「分かりました。殿下にお任せします」
ローリーはそう言うと、直ちに持ち場に戻った。ヒーリーは双眼鏡から、必殺のタイミングをひたすら待った。
「まだ……まだだ……」
龍騎兵が投石機の射程に入るまでの数秒がヒーリーや攻城兵達に永遠とも思えた。
このとき、ワイバニア龍騎兵隊は動揺のただ中にあった。龍騎兵同士の戦い以外で二〇〇名の龍騎兵が壊滅するなど、歴史上ないことだった。それゆえ、末端の兵士や特に地上から攻撃を受けることのない大型翼竜に乗る龍騎兵は半信半疑だった。
「第一波攻撃隊が全滅したのって信じられるか?」
大型翼竜に乗った龍騎兵が後ろの相棒に言った。
「まさか。信じられるかよ。もしかして、あそこにある投石機が新兵器って言うんじゃないだろうな?」
「馬鹿な。投石機なら、俺たちがいる高さまで届いても、余程運がない限りあたらないぜ」
「そうだな」
この数瞬後、彼らには残酷な運命が待ち構えていることになるが、この時の彼らはまだそれを知る由もなかった。一方、投石機の射程に龍騎兵が入ったことを確認したヒーリーは龍騎兵隊が上空攻撃と低空攻撃に分かれる絶妙のタイミングで投石攻撃を指示した。
「撃てぇ!」
ヒーリーの司令部に投石攻撃開始を知らせる旗が翻った。旗を見たローリーはすぐに投石攻撃を開始した。投石機によって放たれた砲弾は龍騎兵隊に届く寸前にはじけ、数十個の子砲弾に分裂した。
「うわっ!」
自分たちに届く前に弾が弾けたことに驚いた龍騎兵だったが、その驚きが恐怖に変わったのはそのわずか二秒後だった。子砲弾が一斉に半径一〇メートルの火の玉になり、彼らを巻き込んだのである。龍騎兵隊の大半が火球に巻き込まれ、なす術もなく地表におちていった。
歩兵にとって天敵とも言える龍騎兵隊が地に落ちていく様を見て、ヒーリー軍からどよめきがあがった。