第五章 決戦! 第四十一話
メルはベッドに眠るラグをちらっと見た。頑丈に造られているとはいえ、魔術銃は飛び道具。格闘戦には不向きだった。まして、龍騎兵との戦いともなれば、陣形を飛び越えて指揮官を倒しにやってくる場合もありうる。ラグはこのことを予想して、格闘戦にも強い魔術銃を発明していたのだった。
「それと、これを・・・・・・」
メルはテーブルに小さな箱を置いた。
「新型の魔術弾丸です。数は少ないですが、役に立つと思います」
「ありがとう、メル。早速ヒーリーに届けさせてもらうよ。それと、ポーラ。君もついて来て欲しい」
エリクはメルに礼を言うと、ポーラに視線を向けた。
「私も・・・・・・ですか?」
「あぁ、ヒーリーも会いたがっているだろう。それに、カストルとポルックスを渡したのは君だとヒーリーから聞いている。げんをかつぐというわけではないが、今回も君からアストライアを渡して欲しい」
「はい。エリク様」
エリクの頼みにポーラは頷いた。
「それでは、早く支度をしないとね。メルキドは遠い、それに戦いに間に合わなくなってしまう」
「明朝、出発しよう。ポーラ。俺がヒーリーの許に連れて行く」
「エリク様が!?」
「そのこともあって、兄上とここに来たんだよ。ポーラ。これを預ける人物は信頼の置ける人物でなければならない。そして、翼竜の扱いに長けている人物でなければならないんだ。その両方の資格を満たしているのは、兄上だけだ」
マクベスはエリクを見た。エリクはマクベス、ヒーリー、二人の影とジェイムズに隠れてはいるが、知勇、そして翼竜の扱いにかけては二人よりも遥かに優れている人物だった。マクベスやヒーリーほど、突出した才能を持っている訳ではなかったが、政戦すべてに精通し、的確な判断を下せる有能な指導者であり、だからこそ、兄妹の信頼と尊敬を一身に浴びている人物だった。
「ですが、エリク様はお出ましになるなんて、危険すぎます!もしものことがあったら・・・・・・・」
ポーラはテーブルから身を乗り出した。エリクが単身戦場へ乗り込むのは自殺行為に等しい。エリクの死もまた、フォレスタルの終焉を意味するのだから。だが、エリクは弟の想い人の頭を優しくなでると、迷いもなく言った。
「俺は王太子である前に、ヒーリーの兄だ。こんなときでしか、俺はあいつの役に立ってやれない。俺なら大丈夫だ。ピット卿か、父上。私を倒せるのは、この二人しかいないのだからな」
エリクになでられたポーラは少し赤くなった。大きく、暖かい手。ヒーリーの優しい手とは違った感触だった。この大きな手にヒーリーは守られて来たのだろう。先ほどまで抱いていた不安感はいとも簡単にぬぐい去られた。
「さぁ、ポーラ。明日は早い。今日はもういいから、旅支度を始めるんだ。いいね」
「はい・・・・・・」
ポーラはうなづくと、三人に一礼し、ラボを出て行った。