第五章 決戦! 第四十話
「ラグニール様、まだ目覚めないのね……」
ポーラはラボのベッドに横たわるラグを見た。眠りについた宮廷魔術師の顔色は白く、さながら大理石の彫像のような美しさを放っていた。このままずっと目覚めることはないのではないか。そのあまりに安らかな寝顔は、若い侍女にそう錯覚させるほどだった。
「急所は外れたけど、シモーヌにつけられた傷が深くって」
メルはぎゅっと拳を握りしめた。シモーヌが憎いのだろう。無理も無い。生まれてから二〇〇年もの間、ずっと二人きりで過ごして来たのだ。半身を傷つけられたのと同じ痛みを感じているに違いない。ポーラはメルの表情と気持ちを察すると、頭を下げた。
「ごめん。嫌なこと、思い出させちゃったね」
「ううん。いいの……?」
メルが言いかけたその時、ラボにノックする音が響いた。
「メルかい? マクベスだ。君たちに用事があって来たんだ」
マクベスの声を聞いたメルはドアを開けた。マクベスの隣にはエリクの姿もあった。マクベスは奥にポーラの姿を見つけると、優しく微笑んだ。
「ポーラもいたんだね。ちょうどいい。大事な話があるんだ」
マクベスたちはメルに奥へ導かれると、今日の戦いの顛末を話した。
「それで、ヒーリーは無事なんですか?」
「大丈夫。彼は無事だよ」
聞き終えた早々、ポーラは椅子から立ち上がり、二人に詰め寄った。エリクはポーラの様子に驚きながらも、座るように促した。
「だが、魔術銃は破壊されてしまった。それでね、メル。あれをヒーリーに渡したいんだ。出してくれるかい?」
「……はい。マクベス様」
メルは静かに席を立つと、ラボの奥から大きめの黒い鞄を持ってやってきた。その黒い鞄の表には金で箔押しされた文字が記されていた。
「アス……ト、ライア?」
ポーラが金の文字を読んだ。メルは頷くと、鞄を開けて一同にその中身を見せた。大きさはカストルとポルックスよりも一回りほど大きいだろうか。片手で扱えるぎりぎりの大きさだった。銃身はむき出していたが、長く、その下の面を固い鋼板で守られていた。そして、銃の各所には魔術文様が彫り込まれ、機能美と造形美を両立させていた。