第五章 決戦! 第三十九話
「あ! 待って。私がやるから。それに、ダメよ。子どもが遠慮がちに笑っちゃ。もっと無邪気に笑うものよ」
ポットに火をかけたポーラはメルに振り向くと、息がかかるくらい近くまで顔を寄せた。一九〇歳近く下の女の子に説教をされるとは。メルは滑稽な事態に思わず笑ってしまった。
「うーん……まだ、笑顔が固いなぁ。もっと笑って! ほーら!」
メルは笑顔を見たポーラは腰に手にうなると、メルの頬をつかんで引っ張った。
「ひょ……ほーら、ひらい……」
よくのびるメルの頬を引っ張ったポーラはようやく、メルを解放すると、メルの頬に優しく触れた。
「メル。あなたが悲しい顔をしてちゃだめ。ラグニール様だって、そんな顔を見たくないと思うよ」
「……ポーラ」
メルはポーラの手に触れた。ポーラの手がわずかに震えているのが分かった。ポーラもヒーリーがいない寂しさに耐えているのだ。メルは小さな手でポーラの白い手をぎゅっと握った。
「ほら。辛気くさい顔しないでお茶しよう! もうすぐお湯も沸くから!」
ポーラは、ぱっと明るい顔になると、メルに言った。小さな宮廷魔術師はポーラの明るさにあてられ、元気を取り戻していった。
ほぼ時を同じくして、フォレスタル王城の謁見の間、国王ジェイムズ・エル・フォレスタル、王太子エリクシル、宰相マクベスらにヒーリーとハイネの激闘の様子が伝えられた。
「ワイバニアの第一軍団長と交戦したと言うのは初めてだな」
玉座に腰掛けたジェイムズは唸った。三十年前、ワイバニア帝国軍と幾多の死闘を演じたジェイムズも第一軍団と戦った経験は無かった。それ故に今回の戦いはフォレスタル首脳にとって、最も大きな関心事であったのだ。
「使者の話だけで、その強さが分かります。ヒーリーはよく戦いました。父上」
玉座の傍らに立つ王太子のエリクが口添えした。不肖の息子の敢闘を父はぶっきらぼうに言った。
「あれにしてはよくやったな。だが、まだまだだ」
王太子と宰相は父親の素直でない一言に顔をほころばせた。
「父上。ヒーリーは魔術銃を失いました。並の武器では龍騎兵は防ぎきれません。新たな武器をとどけようと思うのですが、いかがでしょう?」
マクベスは真剣な表情になると、父王に伺いをたてた。
「だが、宮廷魔術師は眠りについている。あれをつくることはもう……」
「いいえ、あるのです。父上。宮廷魔術師ラグニール・ド・ビフレスト最新にして、最高の一丁が……」