第五章 決戦! 第三十八話
星王暦二一八三年七月九日、フォレスタル王国王都シンベリンの王城の一隅。宮廷魔術師ラグニール・ド・ビフレストの研究室にヒーリー付きの侍女、ポーラ・ワイズマンの姿があった。
ポーラは研究室の分厚い木の扉をノックすると、中の人物を呼んだ。
「メルー? いるんでしょ? 返事して!」
ノックからほどなくして、木の扉がゆっくりと開き、隙間から金色の髪をした少女が顔をのぞかせた。
「ポーラ……?」
メルはポーラを見上げた。ポーラから見たメルは明らかに憔悴しており、師匠の傷のショックが癒えていないことを示していた。
「そんな疲れきった顔をして。可愛い顔が台無しよ! お茶しない? お菓子も持って来たんだから」
「今、そんな気分じゃ……」
そう言って、メルは研究室の扉を閉じようとしたが、ポーラは素早く足を間に挟み込み、扉を閉めないようにさせた。
「す・る・の! ……ね。いいでしょ」
有無を言わせないポーラのテンションにメルは目をぱちくりさせると、苦笑して頷いた。
「あれ? 前に来たときは、もっとごちゃごちゃしていたと思ったけど……」
ラボに入った途端、ポーラは違和感に気づいた。以前は足の踏み場の無いほどに散らかっていたラボがきれいに整理されていたのである。道具は作業机にきちんとおさまり、うず高く積まれていた資料は本棚に入っていた。
「こんなときでないと、きれいに整理出来ないから……」
ティーカップをテーブルに用意しながら、メルは力なく笑った。