第五章 決戦! 第三十七話
「なぁ、おい! ヒーリー! いつまでおれ達は空の散歩をしているんだ!? いい加減下りようぜ!」
「仕方ない。レイ参謀。二人だけの話というものがあるのだ。察してやらなければ」
「そういうわけじゃありませんよ、スチュアート隊長。おれが言いたいのは。馬車なら、おれ達の連隊の馬車を使えばいい。何も軍団幹部が上空警戒しなければならないこともないでしょう?」
「まぁ、そうだが……わたしはこの方が性に合っている。何せ空はいいからな」
快活に笑うアレックスにレイは少し不満そうにむくれた。レイの翼竜騎乗技術はヒーリーと同程度ぐらいで、全く乗れないわけではなかったが、意味も無く空を回っていることは納得出来なかった。先頭を飛ぶヒーリーは心がここにないようで、時々ヴェルをなでては、左右に旋回を繰り返していた。
「わたしにも経験がある。悩み事や頭で整理出来ないことがあった時は、空へあがる。そうすると不思議と頭が真っ白になって、解決策が思いつくことがあるのだ。軍団長も同じことを考えているんじゃないか?」
アレックスは前を飛ぶヒーリーを見ながらレイに言った。レイは「そんなもんですか」と苦笑いすると、下に目を落とした。レイの視線の先には、アンジェラが大きく手を振っているのが見えた。
「おぉぃ! ヒーリー! 話は終わったみたいだぞ!」
「……わかった! 下りるとしよう! ヴェル」
ヒーリーはヴェルの頭をなでた。ヴェルは縦に首を大きく振ると、地上まで一気に降下した。
「おい! 待て! ヒーリー!」
急降下するヴェルを見た二人は、すぐに愛騎をひねると、地面まで降りていった。装甲馬車の上面は指揮官が戦況を見渡すことが出来るよう、屋根が平坦に作られている。ヒーリー達は馬車に速度を合わせると、屋根に飛び降りた。
「お手間をおかけしました。ヒーリー殿」
「こちらこそ、ありがとうございました。アンジェラ殿が助けてくださらなければ、どうしたらよかったものか……」
「いえ、女でしかわからぬこともあります。お気になさいますな」
「いずれ、彼女の方には伝えます。ありがとうございました」
ヒーリーは重ねてアンジェラに礼を言った。アンジェラの言いたいことも、メアリの言いたいことも理解しているのだろう。アンジェラはヒーリーを察すると、小さく頷いた。
「それでは、わたし達も連隊に戻ります。作戦の細部を詰めねばならない故。レイ、もどるぞ」
レイはアンジェラに敬礼すると、それぞれの愛騎に乗り、隊へ戻っていった。
「さて、おれたちも部屋に戻るか、スチュアート隊長。メアリが待っているからね」
ヒーリーは後ろに控えるアレックスに告げると、馬車のはしごを下りていった。星王暦二一八三年七月七日、ハイネとヒーリーの最初の戦いはこうして幕を閉じた。