第五章 決戦! 第三十五話
「いいの?内務大臣を消してしまって。後々、面倒なことになるんじゃないかしら?」
皇帝専用馬車の中、二人だけになった空間で、シモーヌはジギスムントに尋ねた。
「かまわんさ。内務大臣など、替わりはいくらでもいる。むしろ、マクシミリアンが消えてくれた方が都合がいい」
「そう?」
「あぁ、前からうるさい奴だったからな。父上のお気に入りを良いことに、民のため、民のためと俺に意見しやがって・・・・・・」
「でも、兄が死んでしまったら、あの子、私達を殺しにくるかもしれないわね」
「大した問題じゃない。マクシミリアンは殺されるのではない。不幸な事故で死ぬのだからな」
そう言うと、ジギスムントは低く笑った。ジギスムントに分からぬよう、シモーヌは彼をにらんだ。以前は自分の力では何も出来ず、シモーヌに全てを依存していたものだが、最近になって、彼は明らかに変わり始めていた。思考と行動に自分と言うものを持ち始めたのである。それは、彼が暗愚な皇帝ではないことの証明ではあり、彼自身、自覚の無いままに王者への階段を上り始めていることの証でもあった。
シモーヌにとってはそれが面白くなかった。操り人形であるはずの彼の増長は彼女の高い自尊心を傷つけたばかりか、彼女自身に畏れを抱かせていた。
皇帝となったジギスムントの権力は絶大である。アルマダ征服までは彼女を必要としていても、それ以後は・・・・・・恐らくマクシミリアンの比ではないほどの凄惨な結末が待っているだろう。メルキド軍崩壊の謀をめぐらすと共に、ジギスムントの葬り方を考えねばなるまい。ワイバニア帝国に500年以上根を張り続けたアルマダ最高の悪女は思考を働かせていた。