第一章 オセロー平原の戦い 第二十話
星王暦二一八二年六月一六日、フォレスタル軍主力とワイバニア第三、第七軍団が激戦を繰り広げている中、ヒーリー・エル・フォレスタル率いる四〇〇〇の軍勢はハムレット砦を出撃し、オセロー平原中央部に布陣した。
偵察龍騎兵からの連絡を受けたジークムント・フォン・ネルトリンゲンは直ちに配下の部隊に出撃を命じた。両軍が互いにその姿を確認したのは六月一六日正午のことだった。
「さすがは第十軍団、進軍速度は折り紙付きだな」
双眼鏡から敵陣の動きを見たヒーリーは楽しそうに漏らした。ヒーリーは上空の龍騎兵や第十軍団の動き、兵力配置を確認すると命令を下した。
「よし、全部隊、攻城兵大隊を中心に方陣をとれ」
ヒーリー軍四〇〇〇は龍騎兵による攻撃に対応するため、死角なしの方陣を作った。それを見たジークムントは笑った。
「何だ? 何だ? あの小さな方陣は。あの程度の小勢、龍騎兵だけで十分だ。龍騎兵隊、敵を蹴散らして司令官の首を俺のところに持って来い」
ジークムントが龍騎兵隊長に命じたのはそれだけだった。ジークムントはごく単純な命令しか発しない。それだけに第十軍団の作戦行動には各部隊の隊長による采配が作戦の成否に大きく影響した。
「第一波、第二、第三中隊で急降下攻撃をかける」
龍騎兵隊長、ブルーノ・フォン・ノイベンシュタインが部下に言った。
ブルーノは、ジークムントが龍騎兵をしていたころからの付き合いだった。作戦指揮能力は高く、ジークムントも高く評価しており、配下の部隊長の中で最も信頼を寄せていた。
ジークムントの陣から翼竜が大挙して飛び立ち、本隊から離れるのを見ると、ヒーリーは命令を出した。
「さぁ、くるぞ。弓兵隊攻撃用意! いいか、焦るな。必中距離になったら一斉に撃つんだ」
「全騎、ダイブ!」
第一波攻撃隊長の号令のもと、二〇〇を超える龍騎兵が降下して来た。ヒーリー軍前線の弓兵は張りつめた空気の中、隊長からの号令を待っていた。五〇〇メートル、四〇〇メートル、三〇〇メートル……距離は徐々に縮まっていった。そして翼竜が自分たちを食い破らんと大きな顎を開こうとした刹那、その瞬間は来た。