第五章 決戦! 第三十四話
ドルニエはジギスムントに奏上書を手渡した。マクシミリアンからの書状を読み終えたジギスムントは、一瞬表情をゆがめると、再びもとの表情に戻った。
「マクシミリアンよりの書状、確かに余の耳に届いた。マクシミリアンに伝えるがよい。一両日中に撤兵するとな。民のためだ。致し方あるまい」
「ありがとうございます」
ドルニエは表情を明るくさせると深く皇帝に一礼した。
「長旅、疲れたであろう。兵舎を用意させよう。ゆっくりと休むがよい」
ジギスムントは横に控えていた側近のフリードリヒを近くに寄せ、耳打ちすると、ドルニエを下がらせた。ほどなくして、フリードリヒがドルニエに追いつくと、隊列の外へと彼を導いた。
「どうしたのですか?列から離れているのですが」
その返答をドルニエは永遠に聞くことはなかった。フリードリヒは抜剣すると一刀のもとにドルニエの首をはねたのである。最期の瞬間、ドルニエは何が起こったのかわからなかっただろう。全てが一瞬のうちに終わっていた。
「ドルニエ殿、陛下が兵を退くことはございません。そして、早晩のうちに、内務大臣もみまかられることになるでしょう。主の死に目にあう前に亡くなるは、せめて陛下のご慈愛によるものとご理解ください。・・・・・・もっとも、もうお聞きにはなれぬでしょうが・・・・・・」
血の雨が降りしきる中、フリードリヒはもの言わぬドルニエの首に語りかけた。フリードリヒは返り血を浴びたマントを脱ぐと、遺体に投げかけた。
「せめてもの手向けです。私もいずれ、あなたのようになっているでしょうから・・・・・・」
眉目秀麗な皇帝の側近は地面に転がったドルニエに言うと、愛騎の名を呼んだ。
「ロムルス!」
フリードリヒはロムルスに飛び乗ると、ベリリヒンゲン目指して急上昇させた。