第五章 決戦! 第三十三話
星王暦2183年7月8日午前11時、ワイバニア帝国軍本隊は皇帝専用馬車にハイネからの使者が到着した。
「ご苦労。休むがよい」
報告にジギスムントは表情を変えずに言うと、速やかに使者をさげさせた。
「意外と早いわね。フォレスタル軍は」
右元帥のシモーヌはジギスムントの肘掛けに座ると、ジギスムントから手渡された報告書に目を通した。
「俺たちは大軍だからな。遅くていかん」
少し不機嫌そうにジギスムントは言った。シモーヌは彼の不機嫌の元を見透かしたように、酷薄な笑みを向けた。
「クライネヴァルトがフォレスタル軍を見つけたことがそんなに嫌だったかしら?」
「別にそうは思ってはいないさ。ただ、奴らに先手を打たれたことが気に食わないだけだ」
「あら、そう?とてもそうは見えなかったわ」
ジギスムントの一言に、シモーヌは細長い眉をぴくりと動かした。
「口を慎みなさい、ジギスムント。誰があなたを皇帝にしてあげたと思っているの?」
「お前こそ、誰が皇帝か忘れるな。お前を消すことなど、今の俺には容易いことだ」
しばらくの間、二人の間を沈黙が支配した。至尊の冠を戴いた若き皇帝には、いつまでも同列と思っているシモーヌが邪魔になり始めていたし、シモーヌにとっても、御しやすいと思っていたジギスムントが増長し、邪魔になり始めていた。
いつの間にか二人の間に生じ始めた亀裂は時を経るごとに回復不可能なものになっていた。二人の沈黙を破ったのは、マクシミリアンからの使者ドルニエだった。