第五章 決戦! 第三十二話
一方、司令部直衛中隊の一人一人も、ワイバニア第一軍団の恐ろしさを思い知らされていた。
彼らの足下数cmの位置に矢が突き刺さっており、彼らの一人たりとも傷を付けず、かつ身動きのできない場所を銀の雨は正確に射抜いていたのである。その精度の高さに直衛大隊長のモルガンですら顔を青ざめさせていた。
「勝てる気がしない・・・・・・こんな化け物達を相手に俺たちはどう戦えって言うんだ!!?」
直衛中隊の一人が叫んだ。彼をはじめに軍団がざわつき始めた。 第五軍団の周囲に敗北感が漂い始めた。
「ヒーリー・・・・・・」
レイもまた心配そうな表情をヒーリーに向けた。世界の軍事情報に詳しいレイも絶望感は拭いきれなかった。圧倒的な技量を見せつけられたのだ。ワイバニアの中位軍団ならまだしも、上位軍団には歯が立たない。
レイはそう、目で語っていた。ヒーリーは軍団の空気を察すると、息を大きく吸い込み、ひと際大きな声で叫んだ。
「うろたえるな!!」
ヒーリーの叫びは軍団の中心から広がり、軍団は落ち着きを取り戻した。
「彼が素直に退いたのは何故だと思う!?俺たちを脅威と認識したからだ。彼の攻撃に対して、俺たちも負けてはいなかった。去り際に、彼は俺たちを『見事』と賞賛したんだ。俺たちはワイバニアの上位軍団だって戦える。自信を持て!俺たちはフォレスタル最強の軍団だってな!!」
ヒーリーの言葉を兵士達は歓声と勝ちどきで返した。はじめは小さな声に過ぎなかったが、その声はやがて軍団中に広がり、大きな叫びに変わった。
先行していたフォレスタル第一軍団長、フランシス・ピットは野戦指揮所になる専用の装甲馬車の中でそれを聞いた。
「坊め。ひとつでかくなりおったか・・・・・・これで、思い残すことはないな。トマス・・・・・・」
愛弟子の成長を素直に喜んだピットは椅子に深く腰掛け、目をつぶると伝令を呼んだ。
「ワイバニア軍の来襲はもうあるまいが、警戒態勢を維持しつつ、進軍せよ。後続の第三から第五軍団にも伝令。忘れるでないぞ」
フォレスタルの老雄は伝令に伝えると目を閉じ、眠りの世界へとおちていった。