第五章 決戦! 第三十話
激闘から数分が経過していた。その間、両軍は互いに水を打ったように静まり返り、どちらも身動き一つとらなかった。両者は土煙が晴れるのをひたすら待った。ようやく炎の回廊によって生じた土煙が晴れ、ハイネとヒーリーと共に、攻撃を受けたワイバニア、フォレスタル軍の姿が明らかになった。
「あ……」
銀の雨はフォレスタル軍の直衛中隊を避けるように地に突き刺さり、炎の回廊もワイバニアの龍騎兵を一兵たりとも焼き払いはしなかった。両軍損害皆無。それがこの戦闘の結末だった。
「見事……」
ハイネは戦闘体勢を解くと、ヒーリーに言った。
「これほどの手腕、名乗りなど不要と思うが、聞いておこう。わたしは、ワイバニア軍第一軍団長ハイネ・フォン・クライネヴァルト。貴公の名は?」
「フォレスタル軍第五軍団長兼メルキド公国増援軍総司令官、ヒーリー・エル・フォレスタル」
ハイネはヒーリーの名を聞くと、満足そうに頷き、レイヴンに跨がった。
「再び貴公と戦場で相見えることを楽しみにしている。さらばだ」
「あぁ」
ハイネは愛騎を急上昇させると、したがえていた龍騎兵を引き連れ、空に消えていった。
ハイネを見送ったヒーリーは、地面に落ちた愛銃を見つめた。
「カストル、ポルックス……」
カストルとポルックスは大地に無惨な姿をさらしていた。銃身は砕け散り、バネや破片は粉々に飛び散っていた。ただ一つ原形をとどめていたグリップもひび割れ、ハイネの斬撃の重さと早さの凄まじさを物語っていた。
「今まで、ありがとう。カストル、ポルックス」
このまま地にさらしておくのが忍びなかったか、ヒーリーはメルキドの大地に愛銃を懇ろに葬ると、装甲馬車へと一歩一歩歩いていった。