第五章 決戦! 第二十九話
「ヴェル!!」
「レイヴン!!」
ヒーリーとハイネは相棒の名を呼んだ。二人の背後に翡翠と紅の翼竜が舞い降りた。ヴェルとレイヴンは口を開くと、同時に火炎を放った。
「くっ!!」
「ちぃぃ!!」
炎は翼竜の主達にも容赦なく襲いかかった。ヒーリーとハイネはマントを翻すと、二人を襲う火勢をしのいだ。
火炎では勝負がつかないと考えたのか、2匹のエメラルドワイバーンは翼と脚の爪で組み合った。レイヴンもヴェルも戦いの無い時はおとなしいが、百戦錬磨の翼竜である。その力とスピードも互角だった。
「翼竜同士の戦いでも決着がつかぬか・・・・・・ならば!」
ハイネは手を高く掲げた。ヒーリーはハイネの戦術を読むと、モルガンに叫んだ。
「モルガン隊長!!」
「龍将三十六陣が一つ!!」
「第五軍団対空防御陣形!!」
「銀の雨!!」
「炎の回廊!!」
二人は同時に号令した。次の瞬間、第五軍団の頭上から矢の雨が降り注ぎ、地面からは幾本もの火柱が上がった。銀の雨と炎の回廊は空中で交差すると、両軍の兵士達に襲いかかった。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
あまりの壮絶な戦いに、メアリは膝をついた。火柱が上がったときに立った土煙で周囲は何も見えなかった。どちらかが勝っているかは土煙が晴れるまでは分からなかった。
「軍団長!!」
上空から二人の戦いを見ていたアレックスはすぐさま救援に向かおうとしたが、出来なかった。目の前にゲルハルトが立ちはだかったのである。
「貴殿も分かっていよう。この戦いは手出し無用。それとも、ここで私と立ち合うか?」
ゲルハルトは馬上槍をゆらりと構えた。遅いが無駄も隙も無い動き。戦えば、どちらも無傷ではすまないほどの手練。アレックスはスピアを構え、ゲルハルトに相対した。
「ヒーリー・・・・・・ヒーリー!!」
メアリは声を絞り出した。それはあまりにも小さく、弱々しい声だった。それはメアリ自身よく自覚していた。この戦いには自分は好きな人に声すらかけられない存在なのだと。メアリは土煙が晴れるのをただ待つしか出来なかった。