第五章 決戦! 第二十八話
ヒーリーは兵士達に場所をあけさせると、その中央に陣取った。
「さぁ、来い。ハイネ・フォン・クライネヴァルト!」
密集隊形でフォレスタル軍陣地に突入したハイネだったが、一向に迎撃してこないフォレスタル軍に違和感を感じていた。
「妙だな。対空攻撃が来ない。龍騎兵なり、弓兵なりの攻撃があってもいいはずだが……」
愛騎を飛ばしていると、真正面に円状に開いた空間と、その中央にたった一人立つ人影が見えた。ハイネは敵の意図を察すると嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そういうことか……。味な真似をする! ヒーリー・エル・フォレスタル! 龍騎兵全騎、命令あるまで手出し無用! 円陣で上空待機せよ!」
紅の鎧に身を包んだ龍の群れがヒーリーの上空に押し寄せた。
「来たか!」
ヒーリーが上空を見上げると、龍騎兵隊の戦闘を飛んでいた翼竜から金の髪と紅のマントを翻した剣士が飛び降りた。
「くっ!」
ヒーリーは胸のホルスターからカストルとポルックスを抜くと、剣士に向けて発砲した。魔術によって加速された弾丸が、うなり声を上げながら、ハイネに向かっていった。
「ふっ!」
ハイネは短く呼気を吐いて抜剣すると、ヒーリーの放った弾丸を斬り捨てた。続く、2、3発目を首と身体をひねってかわすと、ヒーリーに向かって愛剣を振り下ろした。
「いやぁぁぁぁっ!」
メアリの叫びと共に、周囲に金属音が響いた。ヒーリーはカストルを盾にハイネの一撃を受け止めていた。
「く、ふふ……」
「は、ははは……たぁぁぁぁぁっ!」
ヒーリーはハイネの腹を蹴り、距離をとると再び魔術銃を撃った。一発でもあたれば命は無い。急所を狙った超高速の弾丸である。だが、ハイネは弾道を見切り、ヒーリーの弾をことごとくかわすと、瞬時に間合いを詰めて、愛剣を一閃した。ワイバニア最強の一撃をポルックスで受けたヒーリーはカストルをハイネの頭めがけて振り下ろした。ハイネはヒーリーの打撃を腕でガードすると、ヒーリーを蹴飛ばした。
「くそ!」
バランスを崩しながらもヒーリーは魔術銃を連射した。苦し紛れの攻撃でハイネにダメージは与えはしなかったが、時間は十分に稼ぐことが出来た。戦闘態勢を整えたヒーリーは万全の状態でハイネに銃を向けた。一発必中の構え。ヒーリーはハイネの急所に的確に狙いを定めた。
ハイネもまた、一撃必殺の構えでヒーリーに応じた。ほんの数瞬、ハイネとヒーリー、二人にとって永遠とも感じる時間が流れた。
互いに最強の一撃を放とうとした瞬間、ハイネの剣が砕け落ち、ヒーリーの銃が細切れになって地に落ちた。だが、両者は勝負を捨てた目をしていなかった。