第五章 決戦! 第二十二話
星王暦2183年7月4日、ワイバニア帝国帝都ベリリヒンゲン中心部にある帝国軍大本営翼将宮左元帥執務室に思いもよらぬ客が訪れていた。マクシミリアン・フォン・クライネヴァルト内務大臣。ワイバニア帝国ナンバー2にして、ハイネの兄である。
「内務大臣閣下自らお出ましとは、いったいいかなるご用向きですかな?」
左元帥ハンス・フォン・クライネヴァルトは来客用のソファに腰掛けて尋ねた。マクシミリアンは父の態度に苦笑しながらもあくまで儀礼的に返した。
「左元帥殿。実は内々にてお話ししたいことがあります。お人払いをお願いします」
ハンスは傍らに控える補佐官に目配せすると、補佐官は一礼して執務室を出て行った。人の気配が周囲に無くなったことを確認したハンスは、ソファから立ち上がると陽光差し込む執務室のカーテンを閉めた。
「どうした?マクシミリアン。内々の話とは?」
「父上。大親征を止めていただきたい」
息子の提案にハンスの眉がわずかに動いた。
「何故だ?」
「分かっておりましょう。このままでは、我が軍が崩壊しかねないからです。我が軍はロークラインにせまり、その進撃速度は破竹の勢いです。しかし、敵中深く入り込んでおり、補給線は伸び、いつ寸断されてもおかしくはない状況です。ここで一旦兵を退き、メルキドの東方とロークラインまでのメルキド公国領土の3分の1を領有すればよいではありませんか」
マクシミリアンは補給の困難さを父に説いた。
「見くびられたものだな。マクシミリアン。政治、外交ならともかく、軍事の面から私に意見しようとは。その程度のこと、私が分からないとでも思っていたか?」
眼光鋭く、ハンスはソファに腰掛けるマクシミリアンを見下ろした。