第五章 決戦! 第十八話
「軍団長、我々に任務とはいったい?」
愛騎からおりたゲルハルトはハイネに一礼すると、任務について尋ねた。ハイネが直にゲルハルトを呼ぶ時は、戦局を急転させる時か、少数精鋭による敵拠点急襲など、第一軍団の中でも極めて危険でレベルの高い任務の時だけだった。その他の場合はほとんどゲルハルトに一任されており、ハイネからの信頼の高さを示していた。
「私と共に、龍騎兵一個中隊を率いてフォレスタル増援軍中枢を奇襲する」
ゲルハルトは色を失った。アドニス要塞群を急襲した時とは比較にならない。敵の位置も戦力も分からぬまま、まだ見ぬ敵の本陣を少数の龍騎兵で奇襲するのである。あまりに無謀な行動だった。
「戦力も、場所さえも分からぬ敵を急襲すると言うのですか?」
「そうだ。だが、今回の戦術行動の目的は、主として強行偵察にある。敵の数、位置、予測進路を特定する。このことが、これからの戦局に大きく関係することになるだろうからな」
「急襲はおまけということですか?」
「いや、そういうわけではない。今回、フォレスタル増援軍を束ねているのは、ヒーリー・エル・フォレスタルに違いない。フランシス・ピットに器が無いわけではないが、外征ともなると、王族が出ばって来るに決まっているからな」
ハイネは自信ありげに笑うと、すぐに真剣な顔つきに戻った。
「だからこそ、ヒーリー・エル・フォレスタルの将器。この目で見極める。尊敬に値する敵かどうかをな」
ハイネの瞳に宿った光を見て、ゲルハルトは思った。最初に言った通り、敵陣を急襲し、敵将の器を見極めることが真の目的なのだろう。やはり、ハイネ・フォン・クライネヴァルトは真の戦士なのだ。だからこそ、我々はこの方を信じ、ついていくのだ。世界最強の龍騎兵を束ねる若き大隊長はゆっくりと頷いた。