第五章 決戦! 第十四話
「非情になれ。ヒーリー・エル・フォレスタル・・・・・・でなければ、ワイバニアには勝てない・・・・・・」
月を睨みつけていたヒーリーに小石があたった。下を見ると、そこには酒瓶を掲げたフランシスの姿があった。
「いい月じゃ・・・・・・」
「あぁ」
フランシスはヒーリーと同じように馬車の屋根に上ると、手に持った酒を飲んだ。酒瓶をヒーリーに手渡すと、老将は月を見上げながら言った。
「何年ぶりになるかのぅ。坊と酒を飲むのは」
「たぶん。俺が成人したとき以来じゃないかな。あのときはピット爺とウィリアムに無理矢理飲まされて大変だったっけ」
ヒーリーは懐かしそうに笑った。アルマダ最高の武人、フォレスタル三剣豪、救国の英雄、ピットの代名詞は両手両足で数えきれないほどあるが、そのどれもに共通して言えるのはフランシスが全フォレスタル軍人の憧れの存在であると言うことだった。軍人ならば、彼と会話するのでも緊張が伴うはずであるのに、ヒーリーはいたって自然体でフランシスと会話していた。
「坊。お前、何か隠していることがあるだろう?」
「ピット爺にはかなわないな」
ヒーリーは苦笑した。
「坊。今回の作戦は・・・・・・」
フランシスはヒーリーにそっと耳打ちした。その内容を聞き、ヒーリーは愕然とした。作戦内容の細部に至るまで、ヒーリーの腹案と同じだったからだ。
「どうして・・・・・・」
「わしは、むしろ坊がこの作戦を思いついたのか聞きたいくらいじゃ。この作戦はタワリッシとわしが20年前に話し合った作戦じゃからのぅ。それだけに、何が必要かもわかる。坊、非情になれ。お前はまだ優しすぎる」
「ピット爺・・・・・・」
「心残りはメアリの花嫁姿が見れんことじゃ。・・・・・・坊。心配いらん。メアリとて軍人じゃ。ちゃんとわかってくれる。非情になれ。いいな」
そう言うと、フランシスは屋根から飛び降り、自分の軍団へと戻っていった。ヒーリーはフランシスを見送ると
「非情になるんだ・・・・・・非情に・・・・・・」
一人になったヒーリーは屋根の上に寝そべり、静かに目を閉じた。